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教室を飛び出して、生徒たちの談笑が往来する廊下を走り抜けていく。走っている俺の姿をその生徒たちが目で追っているけど、そんなことを気にしてはいられない。
何だかやけに鼓動が不規則になっているような気がした。走るという行動がもたらす心拍のテンポと、優莉のことを心配する気持ちからくる心拍のテンポ。その二つが入り乱れて、俺の鼓動を不規則にしている。
階段を勢い良く下っていると、その階段の途中で環と出くわした。でも、今は環とゆっくり話をしている余裕なんてない。
「――どうしたの高丘くん?」
なんて声が聞こえてきたけど、俺は走りながら「悪いっ!」とだけ告げてそのまま階段を下りきる。
そしてそのまま昇降口まで進んで靴を履き替えていると、荒い息を吐きながら環が後ろからついてきていた。
「ハァ、ハァ……何かあったの?」
流石に慌ててついてきた環を放っておくわけにもいかないから、俺はそんな環の質問に身体を動かしながらも返答する。
「優莉が校門の前にいるんだ」
「水上さんが? ……でも、そんな慌てる必要なんか……あっ、もしかして少しでも早く水上さんと会いたいってこと? もぅ、高丘くんも随分積極的に――」
「――そんなんじゃねぇよ!!」
思わず叫んでいた。環のどこかからかうような口調が気に食わなかった。もちろん環は悪気があって言っているわけじゃないんだろうけど、今の俺には、その言葉は神経を逆なでするような効果しかない。
俺がイライラを前面に出しながらそう叫び返すと、環はビックリしながら声のトーンを落として呟く。
「……ゴメン。怒らせるつもりはなかったの」
「いや、いいよ別に。……俺も叫んだりして悪かった」
「……本当に何があったの? 水上さんに、何かあったの?」
「正直俺もよくわからない。……だけど、何かあったのかもしれないんだ。もしかしたら……俺のせいで」
「高丘くんのせいって……どういうこと?」
真剣な表情で聞いてくる環に、俺は教室で瞬が言っていたことを手短に伝える。すると環は納得の様子で小さく頷いていた。
「確かに、考えてみればその可能性は高いわね。水上さん、もしかしたら何か嫌がらせを受けてるかも。……私も経験あるし」
「環もって……えぇ!?」
「何を今更驚いてるのよ? 今でこそ高丘くんとの関係は完全に友達扱いって認識されてるから良いけど、中学の頃なんか結構大変だったんだから。それこそ変な言葉が書かれた紙が机の引き出しに入ってたりとか、知らない女子に呼び出されて文句言われたりとか、日常茶飯事だったんだから」
「そう……なのか?」
いきなりの環の告白に、俺は頭が真っ白になりそうだった。知らぬ間に、俺は環にとんでもない迷惑を掛けていたのか……。
「まぁ、別に高丘くんが悪いわけじゃないけど、もう少し自分の立場を認識してくれないとねぇ」
「……その、本当に悪い」
「とにかく、水上さんに会いに行くんでしょ? 早く行かないと見失っちゃうかもよ?」
「お、おう、そうだな」
「――あっ、でももちろん私もついていくからね! 高丘くん一人で行ったら、また勘違いされちゃうかもしれないでしょ?」
ニッコリ笑って宣言する環。その姿に、俺はただただ感謝の気持ちでいっぱいだった。
――何があっても、ずっと友達でいてくれている環の存在が、何物にも変えられない大切なものに思えた。




