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「な、何だよいきなり?」
瞬の真剣な表情での言葉に、俺は意味がわからずそう返していた。
『お前……今日何かやらかしたのか?』
いきなりそんなこと言われたって、身に覚えが無い。それこそ、真剣な表情で心配されるようなこと――。
「『何のことだかサッパリ』って顔だな。……お前、今日昼休みに一年の女子と会ってただろ?」
「え? ……あぁ、会ってたけど、それと『やらかした』ってのと何の関係があるんだよ?」
確かに今日は、昼休みに一年の教室まで行っていた。――向こうの世界で知り合った優莉に会うために。
でも、それが『やらかした』ってのといったい何の関係があるというのか。ただ優莉と会って、屋上で話していただけじゃないか。
俺が率直な意見を返すと、瞬は大きなため息を吐いて頭を垂れながら、呆れたような口調で言葉を返してくる。
「お前なぁ、もう少し『自分の立場』ってのを理解しろよ」
「な、何だよ『自分の立場』って……」
「……………」
「……何だよ?」
「……ハァ。全く、ここまで自覚がないだなんて、呆れを通り越しておめでたいヤツだな」
「だから何なんだよさっきから!」
「いいか、まず第一に『高丘倫人』って名前は、この学校では知らない女子の方が少ない超有名な名前だ。同級生はもちろんのこと、三年だって一年だって、大半の女子生徒は知っているはずだ」
「はぁ? 何をまたそんな――」
「――第二に、何で学校の女子生徒たちがお前の名前を知っているのか。それは、若干……いや、かなり悔しいが、お前がこの学校の中では間違いなく一、二を争う美少年だからだ。言うなれば、お前はこの学校の中のアイドルのようなものなんだよ。実際、これまで何回も女子から告られてきただろ?」
「そ、それはその――」
「――そして第三に、そんなお前が自ら一年の女子に会いに行った。それも、学校の用事とかではなく私情で。……それを見て、周りの女子生徒たちはどう感じると思う?」
「ど、どう感じるかって言われても……。そ、それを言うなら、今までだって何度も私情で環と会ってるぞ?」
「諸岡は別だ。周りの女子だって、諸岡が小学校の頃からのお前の友達だってことはみんな知ってる。敵対視する意味が無い」
「敵対視って、また随分と物騒な……」
「……お前、まだわからないのかよ? いいか、お前が一年の女子に会いにいったことで、その一年の女子は全校女子の妬みの対象になりかねない状況にさらされることになったんだよ! その一年の女子がどんなヤツなのかは知らないが……女の恨みは怖いぞ」
そんな言葉を凄みを増した表情を見せながら告げてくる瞬。正直、俺には瞬の言ったことが到底信じられないけど、もし仮にそれが事実だとすれば、あの優莉がその環境下に耐え切れるとは思えなかった。
ただでさえ、屋上で言っていたことが確かなら、何もなくても普段から優莉は学校に対して恐怖を感じているはず。そんな優莉に追い討ちをかけるようなことがあったら、優莉はもう……学校に来れなくなるんじゃないか?
もしそうなったとしたら、それは……俺のせいということになる。
何だか嫌な結果ばかりが浮かんでくる。――頭の中が、もやもやしてくる。
そのもやもやを断ち切るべく、俺は瞬から視線を逸らして窓外を見やる。
広がる快晴の空。様々な部活動が始まっているグラウンド。帰宅しようとする生徒が歩いている、校門へと続く道。
――そしてその道に、見知った生徒の姿があった。遠目でもわかる。間違いなく、その生徒は優莉だ。
優莉の姿を認識すると、否応なしにさっきまで聞かされていた瞬の言葉が蘇ってくる。
「優莉……」
……思わず口から漏れていた。それを聞いた瞬が、何かを察したように話してくる。
「もしかして、お前が会ってたっていう一年か? どれどれ、どんなヤツ――」
「――悪い瞬、俺先に帰るわ! あ、ノートサンキューなっ!!」
「お、おい高丘っ!!」
言ってすぐ、俺は自分の席に向かってカバンを掴み、瞬から借りたノートを押し込んで走り出す。
どうしても、頭から嫌なイメージが消えてくれない。優莉に……早く会わないと。
――教室を出る前に、瞬が何かを苦笑混じりに言ったような気がしたけど、俺にはその言葉を聞き取ることは出来なかった。
「高丘……お前、結局全然わかってないじゃねぇか――」




