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多分、私は浮かれていたんだと思う。高丘先輩と諸岡先輩の優しさに溺れて。
屋上で感じた暖かな日差しが、私を夢の世界に連れ出していたんだ。爽やかな風が、夢の世界に留めさせるために誘惑していたんだ。
だから、ひとたび現実に戻れば、全てが元通り。……いつもの無機質な世界が、冷たい視線を浴びせかけてくる。
――私は、教室に戻ったことでその事実を痛感していた。
教室に戻ると、私の机の上にはルーズリーフをグシャグシャに丸めたものがこんもりと山になって置かれていた。机の上に収まりきらずに、床に落ちてしまっているものもある。
視線を向けられていなくても感じる、クラスメイトたちの冷ややかな感情。
丸められたルーズリーフを開いてみると、そこには『ユーレイ女』だとか『お遊び専用』といった文字が書かれていた。同じ筆跡に見えるものもあれば、明らかに違う筆跡のものもある。
怖くて、クラスメイトに視線を向けることが出来ない。そんなことをしたら、余計に恐怖が襲い掛かってくるに違いない。
両手でその丸められたルーズリーフを抱えるように持って、数回往復してゴミ箱に捨てる。ゴミ箱に向かうたびに聞こえてくるクラスメイトたちの冷笑が、嫌味なほど鮮明に耳に届く。
全ての丸められたルーズリーフを捨てて席に座っても、当然その恐怖が消えることは無い。むしろ、同じ場所に留まっていることで余計に圧迫感を感じる。
結局私は、いつものように机に突っ伏して視界を机で遮る。そうして、少しでも恐怖の世界の遮断を図る。……私の良く知る、暗闇の世界だ。
クラスメイトたちの冷ややかな声は、私がいつもの行動をとったことで聞こえなくなる。私という存在から、興味を失くしてくれる。
そう、そうしてくれるのが一番助かる。興味を失くしてさえくれれば、私がクラスメイトたちと何かしらの接触を取らない限り、新たな恐怖が舞い降りてくることは無いのだから。
暗闇の世界は、私だけの空間。この空間だけは、誰にも侵食されることが無い。だから私は、この暗闇の空間に自分だけの居場所を作っていた。
色が無くても良い。何も見えなくても良い。ただ、恐怖だけは入れ込まないでほしい。
実際には、机の先の暗闇が空間であるはずなんてない。……そんなこと、わかってる。
でも、例えそうであっても、私が想像すればそこに立派な空間が創造される。
色が無くても、何も見えなくても、そこには確かに私だけの机があり、椅子があるんだ。
そんな席に座って、私だけの空間で時が過ぎるのを待つ。
――そう、これこそが私の現実世界。……いつもの、暗闇に包まれた私だけの世界。




