7-2
「えっ? あ、あれ? 俺、何か泣かせるようなこと言っちゃった?」
突然溢れ出した私の涙に、高丘先輩は焦った様子でそんな言葉を投げかけていた。って、その焦った様子の表情も、涙で滲んじゃっててよくはわからないんだけど。
高丘先輩は涙の原因が自分の言葉にあると勘違い――いや、間違ってはいないんだけど、違った解釈をしているようで、何とか話題を切り替えようと新たな言葉を放つ。
「えっと、その……そうだ、とりあえず、学校に居るときは俺のこと『倫人さん』って呼ぶのはやめといた方がいいんじゃないか? その、俺は別に嫌じゃないんだけどさ……ほら、変に勘違いされたら優莉も嫌だろ? 一応その……俺は優莉の先輩なわけだし……」
「あ……はい、そう……ですね」
何とかそんな言葉を返すけど……どうしよう、全然涙が止まってくれないよ……。
一向に止まることのない涙。その涙は、次第に高丘先輩を追い込んでいく。
「な、なぁ……とりあえず、一度落ち着こう。……なっ」
「はい……すいません。あの……違うんです。倫人さ――高丘先輩が言って……くれたことが嫌だったんじゃ……なくて。そうじゃなくて……嬉しかったんです」
「――えっ?」
「その……さっきみたいなことを言ってくれた人……高丘先輩が始めてで。何だかとても……とっても嬉しかったんです……」
「優莉……」
「だから、その……これはきっと、嬉しい涙なんです。……何だか恥ずかしいですけど、嬉しすぎて……全然止まらないみたいです」
話している間も、ずっと流れ続ける涙。
いつまでたっても視界を滲ませ続ける涙。
――でも、何かを洗い流してくれているようにも感じる涙。
何だか、そんな涙を手で拭ってしまうのはもったいないような気さえしてしまう。
「――そっか。……それなら、無理に止めなくても……いいんじゃないか?」
高丘先輩は、一向に泣き止まない私の頭にそっと手を乗せて、そんな言葉を紡いでいた。乗せられた手が、頭の上で優しく揺れる。
その動作は、今の私にとっては水道の蛇口をひねるようなものだった。
『私』という名の水道の、『心』という名の蛇口をひねる高丘先輩。瞳から流れ出る涙が、その勢いを増す。
……もう、真っ直ぐ高丘先輩の姿を見てはいられなかった。顔をうつむかせて、涙のはけ口を作ってあげる。
そんな私の頭を、高丘先輩は何も言うことなくただただ優しく撫で続けてくれていた――けど、その動作は、次の瞬間ビクッという一瞬の揺れと共に止まる。
「――あらあら、高丘くんって結構罪作りな男なのね」
――突然、誰もいないはずの立ち入り禁止の屋上であるはずなのに、そんな言葉が私の耳に届いていた。




