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小さなざわめきが、教室内をザワザワと蠢きだしていた。
――高丘先輩が、教室の出入り口付近から私の名前を呼んだことが、そのざわめきの要因。
教室内のいたるところから、チラチラと私に視線を向けつつ囁く声が聞こえてくる。
「ねぇ、あの人って二年の高丘先輩だよね?」
「うん、そうだよ。……何でわざわざあんな子に会いに来てるの?」
「しかも名前で呼んじゃったりしてるし……」
「高丘先輩って、あれでしょ? 同級生だけじゃなくて、一年も三年も狙ってる人がいるっていう……」
「水上さんも高丘先輩のこと『倫人さん』って呼んでたよね?」
「うわっ、何様~?」
「ってかあの二人って知り合いだったの?」
「嘘~! ありえないでしょ。だって、あの水上だよぉ?」
……私には聞こえてないと思ってるんだろうか。それとも、わざと聞こえるように話しているんだろうか。
――どちらにしても、その声は確実に凶器となって私の心に突き刺さる。
今更驚きはしない。……どうせ、すでに私の心はつぎはぎだらけなんだし。
私はなるべくクラスメイトたちと視線を合わせないようにしながら、出入り口付近で待つ高丘先輩のもとへと向かう。一歩進むごとに聞こえてくる囁き声が、まるでウネウネと蠢く害虫のように思えてしかたがない。
生まれ出てくる恐怖から逃れるために、私は歩む速度を速める――と、
「おい、何だかよくわからないけど、お前ら好き勝手に人を傷つけるようなこと言うなよ。俺が優莉に会いに来ちゃマズいのか? 優莉が何か悪いことしたか? ――文句があんなら、まず俺に言って来いよ!」
――一瞬で、教室内が静まり返っていた。皆一様に、高丘先輩に視線を向けたまま呆然としている。
けど、クラスメイトたちはすぐに我に返り、とばっちりを受けないようにとそっぽを向いて全く関係のないことを駄弁り始めていた。
そして私はというと、高丘先輩のもとまであと少しという位置で、驚きのあまり続く一歩を踏み出せずにいる。
それでも次第に状況が把握できるようになってきて、自然と熱くなってくる顔。
私は顔をうつむかせながらも、何とか足を動かして高丘先輩のもとまで歩み寄ることに成功した。
顔をうつむかせたままの私に対して、高丘先輩は何だか申し訳なさそうに話しだす。
「ゴメンな。何かちょっと、タイミング……悪かったみたいだな」
「い、いえ……。その、いつものこと……なので」
「そう……なのか?」
「あっ、いえ、その……。でも、それは私が悪いことなので、その……」
私が何とか余計な騒ぎが起こらないようにしようとしていると、高丘先輩はそんな私の思いを察してくれたのか、小さく息を吐きつつ告げてくる。
「――とりあえずここじゃ居心地が悪いし……そうだな、ちょっと上にでも行こうか」
サッと指を天井に向けて差しながら、高丘先輩は私の返答を待つことなく空いている手で私の手を握ってくる。
――その手の温もりは、見慣れない制服姿という外見とは違って、向こうの世界のときと全く変わらないものだった。




