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カフェMay'sと読書少女  作者: 深那 優
5.砦の仲間と読書少女
30/117

5-7

 ステラさんが調達してきてくれた衣服の中から寝巻きに使えそうなものを選んで、それを着て私はベッドの中へともぐりこんでいた。すでにランプの明かりは消され、視界は暗い。

 それでも明かりが消されてからだいぶ時間が経過しているから、暗闇に慣れた目はおぼろげに辺りの景色を捉えてくれている。

 窓の外から時折聞こえてくる葉擦れの音。夜間監視をしている人が歩いている音らしい、金属がぶつかるような音。

 そして、それらよりも近くから聞こえてくる、ステラさんの心地良さそうな寝息。

 私は……当然のように、中々眠りにつくことが出来ずにいた。

 初めての世界に、初めての場所。初めての空気に、隣にいるのは今日始めて出会ったばかりのステラさん。

 ……そう簡単に寝付けるわけないよ。


(――ハァ、ここで寝たら、現実世界に戻るんだよね? 高丘先輩が言ったことが確かなら……)


 小さく息を吐きつつ、ぼんやりと天井を眺めながら今後のことを考えてみる。

 高岡先輩が言ったことが確かなら、私がここで寝たら、次に目が覚めたときには現実世界にいるはず。

 ――あの読書カフェで目を覚ますはず……なんだよね。

 私があの読書カフェで文庫本を読もうとしたときから、いったいどれくらいの時間が経過しているんだろう?

 高岡先輩は、『この世界で過ごした時間がそのまま現実世界に換算されるわけじゃない』って言っていた。だからきっと、『現実世界に戻ったときにはもう次の日の朝だった』ってことはないと思うけど。

 高岡先輩も『サッパリ理屈はわからない』って言ってたから、やっぱり実際に現実世界に戻ってみないとわからないんだろうなぁ。

 ホント、どうなっちゃうんだろう、私……。


「――ふふっ、ユーリちゃん、可愛い……んんっ……」


 隣のベッドで、ステラさんが寝返りをうちながらそんな寝言を言っている。ふふ、いったいどんな夢見てるんだろ、ステラさん。

 ステラさんのそんな様子を見ていたら、何だか色々と考えているのがバカらしく思えてきた。

 どうせ、あれこれ考えたところで現実世界に戻ったときの状況が変わるわけじゃない。下手に不安になるより、きっと深く考えずに寝てしまった方が良いに決まってるよね。

 そう結論付けた私は、考えるのを止めておとなしく寝ることに集中することにした。大丈夫……うん、きっと大丈夫。

 外から聞こえてくる葉擦れの音を子守唄に、私の意識はゆっくりと暗闇の中に沈んでいく――。



 + + + + +



 水の中を浮遊しているかのような感覚の中、私は嗅ぎ覚えのある香りに意識を奪われていた。

 ――あの、何とも心地良く感じた、コーヒーの香り。

 その香りは次第に強さを増していき、まるで身体中を包まれているかのように広がっていく。

 でも、浮遊しているかのような感覚は次第に薄れていき、気が付いたときにはしっかりとした重みが身体中に伝わっていた。

 鼻腔を刺激し続けるコーヒーの香り。腕に感じる若干の痺れ。そして、しっかりと私の耳に届く、聞き覚えのある声――。



「――お帰りなさい。……水上優莉さん」


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