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カフェMay'sと読書少女  作者: 深那 優
5.砦の仲間と読書少女
27/117

5-4

 アレン様と別れた後、私は高丘先輩とステラさんに連れられ、砦の中を案内してもらった。

 一階にある食堂、医務室、武具庫、鍛錬場、浴室、会議中だから入らなかった会議室、地下にある備蓄倉庫、そして二階・三階にある砦に住む人たちの個室。

 案内してもらっている間に出くわした人たちと簡単な挨拶もして、とりあえず私の存在は認識してもらえたみたい。

 ……個室を回っていた時に会ったディックさんが、高丘先輩とステラさんに砦を案内してもらっている私の姿を見て心底残念そうな顔をしていたのがちょっと申し訳なく感じたけど。

 でも、そのことをステラさんに言ったら、『あんなやつ放っといていいから。もぅ、下心見え見えなのよ』って言ってたっけ。

 ふふ、ステラさんとディックさんって、何だか良いコンビなような気がするな。

 そして一通り案内してもらった後、私は高丘先輩と別れてステラさんの部屋に向かうことになったんだけど、高丘先輩は別れる前にステラさんに聞こえないよう私の耳元で囁くように一つの忠告をしてきた。


『もっと早く言った方が良かったかもしれないけど、この世界にいるときは俺のことを先輩って呼ぶのはやめた方がいい。変にお互いの関係性を勘繰られるような呼び方はしない方が良いと思うんだ。だから、俺も優莉のこと名前で呼んでることだし、優莉も俺のこと倫人って呼んでくれると助かる』


 そんな、いきなり『倫人って呼んで』って言われてもって思ったけど、私より先にこの世界に来た高丘先輩がそう言っているからには、やっぱり下手に『先輩』という呼び方はしない方が良いんだと思う。

 だから、私は高丘先輩に『わかりました……。その、倫人……さん』って答えたの。やっぱり何か恥ずかしく感じちゃったけどね。

 けど、恥ずかしがってる私の様子をステラさんが不審に思いだしてるようだったから、何とかこらえて自然な感じで高丘先輩と別れることが出来たと思う。

 まぁそんなこんなあって、私は今、ステラさんの部屋の中にいる。



 ステラさんの部屋は本来二人部屋なようで、入って正面にある窓側に、綺麗に整えられたベッドが二つ設置されていた。

 いつの間にかかなりの時間が経っていたようで、窓から見える外は夜の景色になっている。

 ステラさんがあまりこだわりのない人なのか、それともこの世界の人が一般的にそうなのかはわからないけど、部屋の中には物らしい物がほとんど存在していない。

 せいぜいパッと目につくのは、入って左側にあるクローゼットと、ベッドの手前にある小さな円形のテーブル、それとそのテーブルの上にあるランプと木製の箱くらい。もしかしたら、クローゼットの中に色んな物が入っているのかもしれないけど。

 ……と、こんな感じでベッドに座りながら悠長にお部屋観察をしていられるのには、きちんと理由がある。

 確かにここはステラさんの部屋なんだけど、この部屋の使用者であるステラさんは、今ここに居ないの。流石に、ステラさんがいる中でじろじろと部屋の中を見回すなんて失礼なことは出来ない。

 じゃあ何でステラさんはここに居ないのか。――それは、ステラさんが私の衣服を調達しに行ってくれているから。

 これからここで生活していく上で、衣服が今着ているものしかないっていうのは明らかに問題だしね。それに、多分この制服はこの世界じゃとても目立つものだろうし。

 ……そう、この制服。改めて見てみたらかなり汚れてしまっている。

 土が付いてたり、葉っぱや草が擦れたのか緑色っぽい染みがところどころあったり。現実世界にいたら、制服がこんな汚れ方するだなんて考えられないこと。

 そう、この世界に来なければ、考えられないことだよね……。


 ――ふと、遠くから獣の遠吠えのようなものが聞こえてきた。


 その音に、私は思わず身を縮こませていた。ランプによって明かりが灯されているはずの部屋の中が、妙に薄暗く感じてしまう。

 空気が……冷たい。そんな部屋に、一人で居る現状。

 どうしよう……また、怖くなってきた……。



 お願い……早く戻ってきて、ステラさん……。


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