4-8
高丘先輩が放った言葉……その意味を、私は瞬時に把握することはできなかった。
何だか驚きの事実ばかりに次々と責め立てられ、それらが私の精神を惑わしているよう。
あの読書カフェにいるって……あの店長さんみたいな人が、高丘先輩の従兄ってこと?
それに、あの文庫本に高丘先輩や私が登場人物として描かれてるって……どういうことなの?
「May'sの店長――谷川怜也は俺の従兄なんだ。正直、俺もアイツが何者なのかよくわかってないんだけど、アイツが文庫本を使って俺や優莉をこの世界に入り込ませたのは紛れもない事実。俺が初めてこの世界に来て、そして現実世界に戻ってきたときにMay'sでアイツ自身が言ってたからな。――『倫人君もこれで、晴れてこの物語の登場人物の仲間入りですね』ってな」
「『この物語』って、もしかして……」
「そう……あの文庫本さ。現実世界に戻った時に、俺はしっかりとこの目で見たんだ。――あの文庫本に、この世界のことと俺の名前がしっかりと刻まれているのをな」
じゃあ……何? この世界は、あの文庫本に書かれた物語の世界ってこと?
その世界に、私はあの読書カフェの店長さんによって入り込まされたってこと?
まさかそんな……。いや、今更、何があったとしても不思議でもなんでもないじゃない。現に私は、間違いなくこの世界にいるんだもの。
――高丘先輩の言っていることは、全て真実なのかもしれない。
「俺が見た時には、あの文庫本に書かれた物語は俺がこの世界で寝る前までの出来事しか記されていなかった。その先は、白紙のページが続いているだけだったよ。それからあの文庫本の中身を見てはいないけど、おそらく優莉の名前も出てきてるんだろうな。――今、俺たちが話しているこの事実も、きっとあの文庫本に記されているんだと思う」
高丘先輩はそこまで言うと、壁にもたれかかっていた私の正面に立って、真剣な表情でそっと私の肩に手を添える。
そして、これまでの情報を踏まえた上での推論を鋭い口調で告げてきた。
「おそらく、あの文庫本の物語が続く限り、俺たちはずっとこの世界に来ることになるんだと思う。現に、さっき言ったとおりこの世界の出来事はあの文庫本に記されているから。つまり逆に捉えれば、その文庫本の物語が終わりさえすれば、俺たちはこの世界に来る必要がなくなる。きっとその時、俺たちは本当の意味で現実世界に戻ることが出来ると思うんだ! 俺はその『物語の終わり』が、マーブック地方の魔物の巣窟を壊滅させた時だと思ってる」
自らの推論の告白に気が昂ったのか、高丘先輩の手にはだいぶ力が込められていた。自然と肩に重みを感じ、私は壁にもたれたまま少し膝を落としてしまう。
きっと、はたから見たら何か迫られているような状況だと思われるかも。
高丘先輩の言葉と重圧に意識を完全に持って行かれることのないよう、無理やりそんなことを想像していた……その時、
「とりあえず準備終わったから戻ってきた――って、もしかしてお邪魔だった?」
弓矢を外したステラさんが、勢いよくドアを開けて部屋に入ってきた。そして、すぐさま放たれるそんな言葉。
一瞬の沈黙。高丘先輩とステラさんの間を行ったり来たりする視線。――そして、
「そ、そんなんじゃないです! 誤解を生むようなこと言わないで下さいよ!!」
慌てて手を離して弁解する高丘先輩。そして、その様子すらまともに見ることのできない、恥ずかしさでうつむいている、私……。
――そんな様子に、ステラさんは今までの空気を入れ替えるかのように、一人ドッと声を出して笑っていた。




