4-7
高丘先輩たちがこれから何をしようとしているのか。それは、ある意味とても単純明快なことだった。
――マーブック地方をうろつく魔物たちの巣窟を壊滅させること。
日々行っている見回りや偵察のおかげで、少し前にその魔物の巣窟の在り処が判明したらしい。
近いうちにすぐというわけではないみたいだけど、様子を見ていずれ魔物の巣窟に総攻撃を仕掛けにいく予定なんだそう。
その事実は、この世界のことを知る意味でとても重要なことなんだと思う。
……でも、正直私はそのことよりも、その後高丘先輩が説明してくれた事実の方で、頭がいっぱいになる。
――この世界と、現実世界の行き来についてだ。
「前にちらっと話したと思うけど、俺はこの世界に来てからずっと『ココ』で過ごしてきたわけじゃない。それがどういうことかっていうと……それは、俺が現実世界での生活もちゃんと送ってきているってことなんだ」
「……それがさっき言ってた『二つの世界の行き来』ですか?」
「そうさ。俺は、初めてこの世界に来てから、二つの世界を行き来しているんだ」
「でも……一体どうやってそんな……」
「それが簡単なことなんだ。この世界で寝ればいいのさ」
私がそんな至極当然な質問を投げかけると、高丘先輩は思い出し笑いのような笑みを浮かべながらそう答えた。
けど、忠告するかのような言葉も忘れない。
「――ただ、あくまでそれは一時的に現実世界に戻るってだけみたいなんだけどね」
「どういう……ことですか?」
「確かに、この世界で寝れば、現実世界に戻ることができる。俺自身が体験してるから、優莉も同じで間違いないと思う。でも、それと同じで現実世界で寝ると、またこの世界に来ることになってるんだ。……これも、俺自身が体験してるから間違いないと思う」
「……………」
――正直、すぐに高丘先輩の話を信じることはできなかった。
今私がこの世界にいることも十分に現実離れしたおかしな話だけれど、それにしたって今高丘先輩が語った話はあまりにも現実離れしすぎている。
寝たら元の現実世界に戻って、現実世界で寝たらまたこの世界に来るだなんて、そんなこと……。
でも、それが事実でなければ、私が現実世界に戻る手立てがないことになってしまう。信じられないけど、信じるしか……ない。
それに、嫌でもそれが真実なのかどうかはいずれわかる。私がこの世界で、ただ睡眠をとるだけで良いのだから。
私がそういう風に思っていることを悟っていたのかどうかはわからないけど、高丘先輩は複雑な表情を見せているであろう私に特に疑問を投げかけてくることもなく、淡々と話を続ける。
「あと、この世界で寝て現実世界に戻っても、この世界で過ごした時間がそのまま現実世界に換算されるわけじゃないんだ。毎回決まった時間ってわけじゃないから詳しくはわからないけど……例えば、現実世界の夜に寝て、朝の状態でこの世界に来たとする。そして、夜になるまでこの世界で過ごしていたとしても、再び現実世界に戻った時にまるまる一日分の時間が過ぎていることはない。現実世界で寝た夜の次の朝に、ちゃんと現実世界で目が覚めるんだよ」
「まさか……」
「同じように、現実世界で過ごした時間も、そのままこの世界に換算されることはない。これは一番オーソドックスな例だけど、そうじゃなくても……例えば学校の授業中に居眠りをしてたとしてもこの世界に来るし、その後現実世界に戻ったらしっかりまだ授業中だったりする。……正直、俺にもサッパリ理屈はわからないけどな。多分、優莉がこの世界で寝たら、May'sであの文庫本を読もうとした少し先の時間になって現実世界に戻ってると思う――」
そのあまりの話で気付かなかったけど、高丘先輩の表情はいつの間にかどこか苦虫を噛んだようなものになっていた。
そして、その理由を吐きだすかのように、少し呼気を荒げて言葉を放つ。
「――あのふざけた従兄と、俺や優莉が物語の登場人物として描かれている文庫本のある……May'sにね」




