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ディックさんと別れた後、私は高丘先輩とステラさんに連れられ応接用の部屋と思しき場所を訪れていた。砦に入ってすぐの廊下のような場所からも見ることの出来る、砦の出入口から一番手前左側の一室。
そこには長めのテーブルと七脚の椅子があり、部屋の出入口から見て左右の壁には大きな地図のようなものが貼られている。
その地図を良く見てみるけど、やっぱりどう目を凝らしても見知ったものとは違い、記されているのは見たことも聞いたこともないような地名ばかり。
……ここの周辺の地図なのかな?
「ユーリちゃん、とりあえずここで座って待っててくれる? アレン様……えっと、私たちの主君が戻ってきたら、ユーリちゃんの今後のこととか話し合いましょ」
私が地図とにらめっこしていると、ステラさんは優しく微笑みながらそう告げてくる。
――ただ、その微笑みに対して、私は微笑みを返すことができない。
そうだ。何だか流されるがままここまで来ちゃったけど、私は……この後どうなっちゃうんだろう。こんな、明らかに現実離れした世界で、私はいったい……。
自分の今後のことを考えると、不安と恐怖がじわじわと溢れだしてくる。
少なくとも、私に選択肢は残されていないはず。
だって、この世界に来てまず逃げだしたけど、すぐに高丘先輩に捕まった。きっと今ココから逃げ出したとしても、またすぐに捕まってしまうだろう。
……そもそも、仮に逃げ切れたとしても、その後目指せる場所なんてどこにもないし。
そうすると、結局この砦で待っているという選択肢しか残されないことになる。後は、また流されるがまま話が展開していくだけ……。
溢れだす不安と恐怖が表情に出ていたのか、ステラさんはそっと近づいて私の頭をポンと叩く。
「大丈夫。アレン様は凄く良い方だから。ユーリちゃんのことを野放しになんかしたりしないよ」
「うん、それは間違いないから安心していいよ。優莉は何も心配しなくて大丈夫だ。きっと、良いように取り計らってくれるさ」
ステラさんの言葉に合わせて、高丘先輩も私の不安を取り除こうとしてくれている。
……でも、その言葉たちで私のこの感情が拭われることはなかった。ただただ私は、二人に向けてぎこちない笑みを返すことしかできないでいる。
そんな私の様子に小さく息を吐きながら、ステラさんは視線を高丘先輩に向けて話す。
「とりあえず、私はちょっと準備しなくちゃいけないことがあるから一度離れるけど、リント君が付き添っててくれるから。……いいよね、リント君?」
「あ、はい。……構いませんよ」
高丘先輩の返事を聞くと、ステラさんは改めて私の頭を撫でてから出入り口の方へと進んでいく。
そして、出入口のドアに手をかけると、こちらを振り向いて高丘先輩を指さした。
「それじゃあ、そういうことだからまた後でねっ! リント君……妙な気起こしちゃダメよ?」
「なっ! し、しませんよそんなこと!!」
面白そうにそんな返答を受けて、ステラさんは部屋から出ていった。
――そして出来上がる、私と高丘先輩だけの空間。
必然的に訪れる沈黙に耐えきれず、私はそそくさとテーブル席に腰かける。そんな私の様子を見てどう思ったのか、高丘先輩は私が座った席の対面の席に腰かけていた。
そして、すっと真剣な表情で私を見据えながら、言葉で沈黙の空間を破る――。
「――やっと、二人きりになれたね」
その言葉に、私は思いっきり椅子から転げ落ちそうになってしまっていた。




