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ステラさんが声を掛けてきてから、クリアな視界で目の前の光景をしっかりと認識するまでには少しの時間を要していた。
ようやく光に慣れてきた目で視認した光景――そのあまりにも綺麗な景色に、私は思わず口を緩ませてしまう。
――目の前に、清らかな水を湛える湖が姿を現していた。
一目でその全周を見渡せるくらいだから、湖と言うにはちょっと規模が小さいかもしれない。
でもこの、天からの光を受けて煌めく、透明で鏡のような水の集まりを見たら、池だとか沼だとか呼ぶ気にはとてもなれなかった。勝手なイメージかもしれないけど、池とか沼とかだと、どうしても濁った水を想像してしまう。
そんな湖には、今私たちがいる方から対岸まで続く長い橋が架かっていて、断崖絶壁が続いている対岸側の終着点から少し離れた湖畔には、この湖にはちょっと似合わない無骨で堅牢そうな建物が。多分、あれがステラさんが言った『プレストの砦』なのだろう。
橋の途中には小屋のようなものが建ち、その小屋の前には人影が窺える。遠目だからハッキリとしたことはわからないけど、その人は槍のような長い棒状のものを持って、直立不動でこちら側を注視してるよう。
私がこの光景に目を右往左往させていることに気付いたのか、高丘先輩がそっと近づいて声を掛けてきた。
「あの奥に見えるのが俺たちの目的地、プレストの砦だよ。すぐ前にあるこの湖はタスシール湖。俺も詳しくは知らないんだけど、地下からの湧き水で出来てるみたいで、見てわかるとおり凄く透明度が高いんだ。それと、タスシール湖に架かってるあの橋の途中に小屋があるだろ? あそこは砦に入る為の関所みたいなもなんだ。砦の後ろは断崖絶壁だし、タスシール湖の向こう岸は橋の終着点付近以外ほとんど断崖絶壁に面してるのもあって、事実上砦にはあの橋を渡って行かないと辿り着けないようになってるからね。あの小屋の前にいる人は、砦の守衛さんってとこかな」
話に合わせて該当する場所を指し示しながら、高丘先輩は私に説明してくれる。
どうしてなのかはわからないけど、時折私の方を振り向く高丘先輩はやけに嬉しそうな表情をしていた。その表情に釣られてか、私の表情も自然と緩んでいるみたい。
何となく目の前の水の集まりはやっぱり湖だったんだということにホッとしつつ、ステラさんに身体を預けるのを解いて深呼吸してみる。
足は、やっぱりまだ痛い。……でも、あのどうしようもなかった吐き気はだいぶ沈静化しているように思えた。多分、この清々しい景色と陽気、そして沁み入る澄んだ空気のおかげかも。
「さて、リント君の説明会も終わったことだし、さっさと砦に向かうとしましょ! リント君にもユーリちゃんにも、聞きたいこと一杯あるしねっ」
私という荷物から解放されて一安心といった様子のステラさんの言葉を合図に、私たちはようやく視認できるようになったプレストの砦に向けて再び歩き始める。
ふと横を向くと、湖畔を進む私たちの姿が湖面にしっかりと映し出されていた。
――まるで湖が私に、『私は確かにココにいるんだ』という事実を改めて伝えようとしているみたいだった。




