19-7
虚ろな表情を見せるステラ。そんなステラの様子を改めて確認すると、コウモリのような魔物の残虐さがよくわかる。
腕や脚だけでなく、胸部から腰部にかけても同じような傷跡が見てとれたんだ。
鎧を身につけていないステラの身体は、コウモリのような魔物の格好の餌食になってしまったんだろう。
そんなステラは、虚ろな眼差しで俺の姿を捉えると、気持ち頬を緩めて話し出す。
「あっ……ディック? ……怪我は大丈夫……なの?」
「ああ。……俺を誰だと思ってんだよ。ってか俺のことより、お前の方が……ヤバいんじゃねぇのか?」
「私は……大丈夫よ」
「ハッ、よく言うぜ。……そんなセクスィ~な格好にさせられておいてよ」
「……えっ?」
コウモリのような魔物によって、ステラの衣服はボロボロの状態になっていた。いたるところが引きちぎられていて、傷跡が残っている部分もそうでない部分も含め、肌の露出が凄いことになっている。
でも、そんな普段ならばすぐにでも殴りかかってきそうな言葉を投げかけても、ステラが俺に反撃してくることはなかった。物理的な攻撃を仕掛けてこないのは怪我をしているのだから仕方ないだろう。だが、今のステラは『口撃』すらしてこない。
……こんな風に思っている場合ではないということは重々承知しているつもりだが、ステラがこんな調子だとこっちまで調子が狂っちまう。
「ステラ……」
「……何?」
「……お前、何で来た? それも単独行動なんてしやがって」
「……………」
「お前はよく『油断してると痛い目に合うわよ』とか俺に言ってくるくせに、お前自身がそれでどうすんだよ」
「……ゴメン」
「そんなんじゃ、俺にとやかく言う資格なんてねぇぞぉ?」
目の前のステラがステラじゃないみたいで嫌だった。だから俺は、少しでもいつものステラに戻すべくそんな冗談を言ったんだ。
……でも、ステラが返してきた言葉はやっぱり俺が想像したものとは違っていた。――けど、表情は虚ろなものではなくなっている。
「だって……」
「ん?」
「――だって、仕方ないじゃない! ……心配だったんだから。ニィナからあんたが重傷だって聞かされて、本当に心配だったんだから!!」
……今にも泣き出しそうな表情を見せるステラ。言葉よりも、その表情に唖然としてしまう。
それは俺にとって麻酔のような感情だったんだろうか。……今でも痛覚を刺激し続けているはずの痛みが、少しも伝わってこない。
「……わりぃ」
それしか思いつかなかった。そんな言葉を掛けることしか、今の俺にはすることが出来なかった。




