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聞こえてきた声――それが、ステラのものであることは間違いない。……アイツの声を聞き間違えるだなんてこと、あるはずがない。
だが、何でアイツの声が聞こえてきたのかがわからない。見回り当番でもないステラの声が、何故この林の中で聞こえてきたのか。
ただの幻聴? ……いや、そんなはずない。アレン様だって、あの声に反応していた。
――考えていても仕方ない。とにかく、アイツの声が放たれた場所に一刻も早く辿りつかねぇと!
「ディック落ち着け! あの声は……ステラなんだな!?」
「あぁ、間違いない! あれはステラの声だ!!」
背後から追ってきているアレン様の言葉に、俺は敬語など全く使わずに答える。絶えず伝わってくる痛みに気が狂いそうになるが、ステラのもとへと急がないとという想いが、鎮痛剤の役割を果たしていた。
アレン様とリントが、背後から俺の手を掴んで止めにかかる。振り払って一刻も早く先に進みたいが、残念ながら今の俺にはその手を振り払うほどの力を出すことは出来ない。
「放せっ! アイツん所に行かなきゃならねぇんだよ!!」
「落ち着いてくださいディックさん! あの声の感じだと、ステラさんは魔物に襲われているのかもしれません。……今のディックさんが行っても返り討ちに合うだけですよ!!」
「うっせぇ! たとえそうであっても、俺は行かなきゃならねぇんだよ!!」
背後を振り返って、リントを睨みながら叫ぶ。
おそらく、リントが言っていることは正論なんだろう。だが、リントが言ってることが正しいかどうかが問題なんじゃねぇ。……俺の気持ちがどうなのかが問題なんだ。
「いい加減にしろディック! ステラのところへは俺とリントが行く。お前はここでおとなしく待っていろ!! いいか、これは命令――」
「――悪いけど、そんな命令には従えねぇよ! すぐ近くで仲間がピンチになってるんだ! 放っておけるわけねぇだろ!!」
それは、いくら強がっても結局アレン様とリントの手から抜け出せずにいる俺の、今出来る精いっぱいの抵抗だった。玉砕覚悟。……きっと、アレン様に強く止められて、それで終わりだ。
結末がわかっていても、それでも抵抗せずにはいられなかった。アイツが危険に晒されているかもしれないときに、俺は……。
――だが、次にアレン様が放った言葉は、少しも想定していなかったものだった。
「――ならばデッィクよ。……せめて、無茶だけはするな。お前だって大事な仲間なんだ。お前に何かあっては、本末転倒だろ?」
そう言いながら、アレン様は掴んでいた手を離す。
「俺も行って……いいのか?」
「お前が素直に人の言うことを聞くようなやつじゃないということは、重々承知しているつもりだ。どうせ止めたところで行くんだろ? ……先にいるのがステラでれば尚更な」
アレン様の全てを見透かしているような言葉と表情が気に食わねぇが……確かにその通りだ。
アレン様の行動に合わせるように、リントも俺から手を離す。自由になった手を胸に当てて、俺は小さく頭を下げた。
「俺とリントが先行する! ディックは後からついてこい! 言っておくが、いちいちお前のことを待ってたりはしないぞ!!」
アレン様の言葉を胸に刻みつつ、俺は先行した二人の後ろを追っていく。しばらくすると、耳に響く鳴き声のような音と何かが羽ばたいているような音が聞こえてくる。そして――。
――視線の先に、倒れこんで木に寄りかかっているステラと、そのステラの周りにたかって身体のあちこちに噛みついているコウモリのような魔物の姿が映し出された。




