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一歩踏み出す振動だけで骨が軋み、ちょっと深く呼吸するだけでも痛みがじわりと伝わってくる。
アレン様とリントの肩を借りているにも関わらず、俺はその痛みに顔を歪めながら本当にゆっくりとしか歩くことが出来ずにいた。メチャクチャ酷い状態じゃあないだろうが、あばらを数本やられたのは間違いないだろう。
……ったく、情けないったらありゃしねぇ。アレン様と二人で攻めたにも関わらず、このザマだ。
自分の力を過信しているつもりは少しもねぇが……実際見事にやられちまったんだ。……結局俺の腕はまだまだってことなんだろう。
それに引き換え、リントのやつはよく頑張った。俺とアレン様でも中々歯がたたねぇようなやつを、機転の利いた作戦で見事に倒して見せたんだから。
……こんなんじゃ、どっちが先輩かわかったもんじゃねぇな。
痛みを誤魔化す意味も込めてそんなことを考えていたが、ちょっと木の根っこに足を引っ掛けただけで激痛が走る。
「……大丈夫か? 無理はするな、ゆっくり進もう」
「へへ、大丈夫ですって。とっとと……砦に戻りましょうや」
そんな言葉を返しても、それが苦し紛れのものだということはバレバレなんだろう。アレン様が俺に向ける眼差しは、少しも揺るがない。
……はは、本当に情けないぜ。
「ディックさん……無理して悪化させても良いことはないですよ。多分もう砦にも連絡が届いているはずですから、きっと何人か助けに来てくれます。それまで待っていた方が良いんじゃ……」
「ハッ……リントも心配性だな。……大丈夫だって、言ってるだろ? 自分の身体のことは、自分自身が一番良くわかってるさ」
「ですが……」
「心配すんなって。お前に心配されるほど……俺はやわじゃねぇよ」
アレン様だけでなく、リントにまで苦し紛れなのを見抜かれてしまっている。本当は軽く頭でも小突いてやりたいが、そんな些細な動きすら自衛本能からかすることが出来ない。
そんな俺の様子を見て、アレン様とリントは互いを見合って何かの意思疎通をしているようだった。……そして、二人の動きが止まる。
「ディック、やはり砦から救援が来るのを待とう。……いや、せめて少しの間休憩しよう」
「そうしましょうディックさん」
「だから、大丈夫だって言ってるでしょう? 本当に、二人とも心配しすぎ――」
「――ディック! ……ならば魔物討伐隊長として命ずる。おとなしく、この場で救援を待つぞ」
アレン様の、有無を言わさぬ気迫のこもった言葉。……その言葉に、俺は返す言葉が見つからずに小さく呻くことしか出来なかった。
理不尽ではない正当な命令であれば、従わないわけにはいかない。それ以前に、アレン様にあんな表情で威圧されては、流石の俺でも竦んでしまう。
俺はアレン様とリントに導かれるがまま、大きな木に寄りかかる。下手に横になるより、直立体勢でいた方が負担は少ない。
噴き出る嫌な汗を拭いつつ、ゆっくりと呼吸する。ザワザワと葉が擦れる音に耳を傾け、少しでも気持ちが落ち着かせようとする。
だがそんな些細な努力は、次の瞬間ただの無意味な行動になる――。
「――ちょこまかと……しい! ……かげん……なさいよ! なっ!? …………いやっ!!」
「この声は? ――ディック!?」
「ディックさん!?」
聞こえるはずのない聞き覚えのある声に、俺は歯を食いしばりながら駆け出していた。アレン様とリントが手を差し伸べてくるが、乱暴にそれを払う。
物凄い痛みが全身を駆け巡っていくが、そんなん気にしているわけにはいかない。
何故だ? 何でアイツがここにいるんだよ!?
――ステラッ!!




