18-5
固い物体が湿気の多い大地に激突する低い音が響く。――異形の獣が体勢を崩して正面に倒れ込んだんだ。
太い腕で受け身をとるわけでもなく、顔面をもろに強打している。想いのこもったロープは、見事に異形の獣を転倒させる役割を果たした。
でも、それは本当にギリギリの結果だったんだろう。――想いのこもったロープは、異形の獣が倒れたのとほぼ同時に、プツッという何ともか細い音を残して切れる。
ロープが切れた反動で、アレン様と俺は揃って前につんのめってしまう。反動を抑えきれずに、思いっきり転がる俺。
……でも、アレン様はしっかりと踏ん張って転倒するのを防いでいる様子。サッと異形の獣の方を振り向き、転倒しているのを確認すると、すぐさま異形の獣に駆け寄っていく。
「――せいっ!!」
掛け声と共に振り下ろされる、白銀の剣。……だが、アレン様の一撃は横に半身転がって仰向けの状態になった異形の獣の鈎爪によって受け止められていた。爪と爪で白銀の剣が挟まれている状態だ。
その様子を、俺は両膝を地面につけた状態で眺めていた。そして、ちょうど手足に力をこめて立ち上がろうとしていたときだった。
「――リント! トドメを刺すんだ!!」
異形の獣の鈎爪を白銀の剣で押さえ込んでいるアレン様が、鋭い眼光を見せながら叫ぶ。――その指示に応じない理由なんて、何一つ無い。
陸上のクラウチングスタートのような体勢から、一気に異形の獣のもとへと駆け出す。そして倒れている異形の獣の頭部側まで辿り着くと、俺は近くから見ると間抜けに見える顔を睨みながら叫んだ。
「――これで終わりだぁっ!!」
+ + + + +
「――ふぅ。何だか朝から凄いことしちゃったなぁ。でも、皆が戻って来るときには、今度はお出迎えが待ってるんだよね……」
部屋でドレスからこっちの世界での普段着に着替えながら、私は朝の出来事を思い起こしつつ呟いていた。何だかんだでお昼時になってしまうまでずっとドレス姿のままでいたから、普段着の緩さに何だか気分がホッとする。
「そりゃあユーリちゃんは砦の皆のアイドルなんだから! ……皆、喜ぶわよぉ」
何とも楽しそうにそう話すのはステラさん。今日は特に任務の予定が無いというステラさんは、見回り当番の皆を見送った後からずっと私に付きっきりなの。……何か『折角フリーな日なんだから、いっぱいお話したいじゃない』ってことみたい。
私としても、ステラさんと話すのは好きだから、ステラさんがそう思ってくれているのはとても嬉しい。それこそステラさんがいなかったら、私はこの部屋で一人ぼっち。……そんな寂しくて怖くなるような環境から救ってくれるステラさんは、私にとって本当に大切な人なんだ。
着替えの最中、そして着替え終わってからもステラさんとの間で展開される、たわいもない話。……そんなたわいもない話が出来ることが、とっても嬉しい。
「さぁて、とりあえずお昼ご飯でも食べない?」
「あっ、そうですね。私もうお腹ペコペコです」
「あはは、朝からお勤めご苦労様っ」
ステラさんの提案で、私たちはお昼ご飯を食べることに。本当に楽しそうに笑うステラさんに、思わず私もにやけちゃう。
――でも、そんな楽しい気分は、次の瞬間一気に消え去ることに。
「――ステラいるっ!?」
一人の女性が、物凄く慌てた様子で私たちの部屋に駆け込んできていた。白衣のような物を着ていて、頭には白いキャップを被っている女性――医務室で砦の皆の身体を護っているニィナさんだ。
ニィナさんはステラさんの姿を確認すると、思いきり肩を掴んで真剣な表情で告げる。
「落ち着いて聞いてね。……ディックが重傷を負ったみたい」
――その言葉に、ステラさんの表情が凍りついた。




