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カフェMay'sと読書少女  作者: 深那 優
17.苛立ちの影と偶像少年
103/117

17-4

 ――さっきまでの苛立ちはどこに行ってしまったのだろうか。そう思ってしまうくらい、俺の心境は急激に変化していた。

 けして優莉の言葉の件が自分の中で落ち着いた――というわけではない。そうではなく、苛立ちに意識を奪われている場合ではない状況に、今陥ってしまっているんだ。


 林の中を進んでいた俺たちの前方――そこに、異形の獣が現れていた。

 体長2メートル近くあるのではないかと思われる二足歩行の獣は、全体的に爬虫類の鱗のようなもので覆われていて、長い首の先端にある頭はコブラのよう。細長く黄色い瞳にチョロチョロと蠢く細長い舌、太い腕には鋭い鉤爪が光っている。

 これまで見たことのない……そして聞いたこともない魔物。見かけ倒しでなければ、物凄い強敵だと思われる。


「――ディック、リント。……アイツを見たことは?」

「いえ、見たことも聞いたこともないです」

「……俺も見たことない。だが、中々アイツは危険そうだ。ヤバそうな雰囲気がプンプンしやがる」


 どうやら、アレン様もディックさんもあの魔物を見たことがないようだ。それに、同じく危険な存在だと認識している様子。


「確かにそうだな。おそらく、これまで確認されていない魔物なのは間違いないだろう。……それに、危険な匂いがするというのも同感だ」


 こちらの存在を認識して奇声を上げている異形の獣を睨みつけながら、確認するように呟くアレン様。その言葉に呼応するように、ディックさんが携えた剣を抜く。

 少し遅れて俺も剣を抜くと、最後にアレン様が深呼吸するようにゆっくりと剣を抜いた。

 ――抜かれた剣の刃は、異形の獣との争いの始まりを合図するかのように木漏れ日に煌めく。



 異形の獣が、細長い瞳をキョロキョロと動かしながらゆっくりと近づいてきた。ほぼ全身を覆う鱗が、艶めかしく黒光りしている。

 俺たちのことを少しも脅威と認識していないのか、異形の獣は全く焦りの様子を見せない。……まぁ、そもそも異形の獣の顔から表情を窺うことなどできないのかもしれないが。

 太い腕の鉤爪が、こちらに近づいてくるたびにガチガチと音を立てる。金属と金属がぶつかり合うような、耳に響く鋭い音。

 その音が聞こえてくるたびに、否が応にも緊張が高まっていく。……嫌な汗が頬を伝っていく。


「……ディック、俺がまず仕掛けて隙を作る。お前はその隙を狙ってくれ。リントは後方で待機。絶対に無暗に突っ込むようなことはするなよ……いいな!」


 アレン様の指示に頷くディックさん。……そして、頷かざるをえない俺。

 剣の腕前はどう考えてもディックさんの方が俺よりも数段上手だし、それどころか俺は素人に毛が生えた程度のひよっこ。……当然の判断だ。

 でも、俺はこの状況下で待機してることしかできないのか。アレン様やディックさんの後ろで、不安に包まれながらのうのうとしていることしかできないのだろうか。

 ……いや、今はそんなことを考えていても仕方ない。


「――行くぞっ!!」


 アレン様が吠え、異形の獣との戦いが幕を開けた。


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