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現れた優莉に、見回り当番の面々は軽くざわめきだしていた。昨日、今着ているドレス姿で改めて挨拶回りをしていたらしい優莉は、砦の者たちの注目の的であり、話題のタネ。
そんな優莉がドレス姿で目の前に現れたんだ。……このざわめきも頷けるだろう。
「諸君、今日はリギュンの計らいでユーリが我々を送り出してくれることとなった! ――ユーリ、皆に声を掛けてやってくれるか」
アレン様の言葉に、優莉は緊張の面持ちで頷く。そして、皆の姿を確認することができるよう一歩前に出ると、そっと胸に手を当てて呼吸を整えながら俺たちを送り出す言葉を放った。
「――私はついこの前まで、行き倒れていたところを助けてもらった一人の娘にすぎませんでした。砦の皆さんがこうして毎日のように見回りをしてくれていなければ、今私はこの場に立っていられなかったかもしれません。
……でも、砦の皆さんに助けていただいたおかげで、私はこうして皆さんと向き合うことが出来ています。皆さんの力が、間違いなく私という一人の民を救いだしてくださったんです。
皆さんに助けていただいたおかげで、私は皆さんの仲間になることが出来ました。……今度は、私が皆さんの力になる番だと思っています。
残念ながら、私のような無力な娘では皆さんと共に行動して魔物と相対することは出来ません。……でも、せめて皆さんのご武運を祈らせてください。皆さんがマーブック地方の平和を取り戻すその日まで、どうか皆さんの無事を祈らせてください。
私に出来るのは、皆さんのことをこうして送り出すことと、見回りを終えて帰ってきた皆さんを迎えることくらいです。……ですので、どうか皆さんのご帰還を、笑顔で迎えさせてください」
優莉はその言葉を言いきると、見回り当番一人一人の手を握って、しっかりと視線を合わせながら何やら更なる言葉を掛けていく。
その声は小さなものだったけど、俺のすぐ近くの人――ディックさんにまで達したとき、その言葉の内容を聞き取ることが出来た。
「――どうか、ディックさんに神の御加護がありますように。マーブック地方の民のためにも……そして、私のためにもどうか無事に戻ってきてくださいね」
おそらく優莉は、皆の名前と共に、その言葉を投げかけてきたんだろう。
一人一人に声を掛ける前のやけに丁寧な言葉は、きっとリギュン様によって作り上げられた言葉だと思う。……でも、その言葉も一人一人の名前も、覚えたのは優莉自身。
掛けている言葉が優莉自身の想いに反していたりしたら、きっと全て覚えることなど出来なかっただろう。
――掛けている言葉は、間違いなく優莉自身の本心なんだ。
優莉がアイドルになると聞いて、俺は正直ホッとしていた。それは、優莉が戦いの場に赴くことにならずに済むからであって、実際にアイドルになれるかどうかは、ぶっちゃけたところどうでも良かったんだ。
――でもリギュン様が言っていたように、俺が思っていた以上に優莉はアイドルの資質があるのかもしれない。
そんなことを感じているうちに、優莉が俺の前までやってきていた。優莉の華奢な手が、俺の手を優しく包む。
「――たか……えっと、倫人さん。どうか無事に戻ってきてくださいね。私……倫人さんを笑顔で迎えたいです」
あぁ、間違いない。やっぱり優莉はアイドルの資質がある。
でも、俺に掛けてくれたような言葉を他の人にも掛けていると思うと、穏やかな気持ちのままではいられない自分がいた。




