3-1
「優莉、君は俺の後ろにいるんだ。いいか、絶対に離れるなよ」
高丘先輩は、そう言いながら黒毛の獣に対して私の前に立つ。表情を窺うことはできないけど、高丘先輩の口調に緊張の色が見える。
その様子に、私は声を出すこともなくぎこちなく頷くことしかできなかった。
あの狼のような黒毛の獣……いったい何なんだろう。私がイメージする狼の姿よりちょっと大きいし、そもそもあんな真っ黒の体毛の狼なんて見たことないし。
そして何より、あの禍々しさすら感じる赤い瞳。
あれを見たら、どう見ても普通の生き物だとは思えなくなってしまう。
そんな、高丘先輩の背中越しに見る黒毛の獣は、前足を踏ん張り低い唸り声をあげて臨戦態勢をとっている。
そして、高丘先輩が携えていた剣を抜く――その鞘ずれの音を合図に、黒毛の獣との戦闘が始まった。
黒毛の獣が、高丘先輩という獲物をその瞳に捉えながら、高く跳躍していた。
一体どれほどの筋力を有しているというのか、それなりに距離は離れていたにも関わらず、その跳躍一つで一気に高丘先輩の首筋目掛け牙を剥く。
けど、高丘先輩もただ黙って見ているわけじゃない。黒毛の獣が跳躍した瞬間に構えていた剣を、剥き出しの牙目掛けて大きく振り抜く。
――響き抜ける、甲高い衝撃音。
黒毛の獣は、後方に宙返りしながら着地。そして、再びの臨戦態勢。
高丘先輩は自分から攻めることなく、相手の動きに合わせて隙を狙おうとしているようだった。私に背中を見せたまま、この場から一向に動こうとしない。
けど、ふと高丘先輩の足元を見下ろすと、何だか一歩前進しようとするのを必死に堪えているように見える。
その様子に、私は自分の考えが間違いだったことに気付く。
……違う。高丘先輩は相手の隙を狙おうとしてこの場でじっとしてるわけじゃない。
私が……後ろに私がいるから、動きたくても動けないんだ。
私を、守るために……。
黒毛の獣は、さっきの跳躍が嘘のように、臨戦態勢を保ったまま高丘先輩を睨んでいた。そしてまた、低い唸り声が聞こえてくる。
――だが、その唸り声は目の前にいる黒毛の獣が発したものではなかった。
そのことに気付いて、私は慌てて背後を振り向いた。
そして私は、思わず小さく呻いて高丘先輩の背中に寄り掛かってしまう。
振り向いた視線の先――そこに、臨戦態勢の黒毛の獣がもう一匹現れていたんだ。
高丘先輩はその唸り声には気付かなかったみたいだけど、私が背中に寄り掛かったことで、異変に気付いてこちらを振り向く。
けど、その時にはもう、視線の先にいる黒毛の獣は私に向かって飛び掛かろうとしていた。
「――優莉っ!!」




