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今日も空を見上げれば、な~んにもない澄み渡った空が広がっていた。雲の一つもない、何の面白みもない空。
ただただ続く青をずっと眺めていると、そのうち私を吸いこんでしまうのではないかと恐怖を覚える。
私の住む世界は、これまでと変わることなく恐怖で満ち溢れていた。
毎日のように通っている高校へと続く道を歩いている私。行き交う人たちの視線はどこか獲物を狙う蛇の目のように見え、私の足を支えているアスファルトの無機質な道も、私を取り込む機会を窺っているかのように冷たく感じる。ポツポツとある電信柱は、きっと私を取り込むための道の腕だ。
学校に着けば、また牢屋のような教室で言葉の応酬を受けることになる。先生の言葉は私の足枷。そして、クラスメイトたちの言葉は私を傷つける凶器。
まだ高校に入学して一ヶ月足らずだけど、すでにその恐怖の印象はしっかりと私の中にインプットされてしまっている。
……やっぱり、今日もこの学校へと続く道は恐怖に満ち溢れている。とにかく学校が怖い。……怖いのだ。
別に目に見えたいじめを受けているというわけではない。ただ、元々人見知りな私は入学してからずっと友達も出来ないまま過ごしてきたため、完全にクラスで一人取り残された存在になってしまっているのだ。
当然、周りからは奇異……というのは言いすぎかもしれないけれど、変な人として見られる。
そんな風に見られることは慣れているものだと思っていたけど、高校生活は義務教育である中学までのものとは全く違う。
小学校の頃からの数少ない友達がいた中学とは違い、高校には友達と呼べる人が一人もいない。
心を休める場所が存在しないから、ただただ恐怖だけが絶えず生まれてくるのだ。
だから、そんな学校へと続く道を進むだけで、恐怖は自然と生まれてくる。
……でも、その恐怖から少しの間だけでも逃れる方法。それだけは、私は何とか見つけることが出来ていた。
周囲から常に伝わってくる恐怖に耐えながら、私はカバンの中を漁って目的のものを取り出す。
――それは昨日購入したばかりの、一冊の文庫本。
読書をしている時間――その時だけが、私が恐怖から逃れることの出来る貴重な時間だった。
頭の中が本の中の世界で満たされると、恐怖の感情は自然と私の中から消え去ってくれる。
本は私を恐怖から救ってくれる、唯一無二のスペシャルアイテムなのだ。
……とはいえ、文庫本を取り出したのは良いものの、あと十数分もすれば学校に到着し、あの牢屋のような教室に赴かなければならなくなってしまう。
そう思うと、全く取り出した本の内容に集中することが出来なくなってしまう。
恐怖が、あっという間に私の心を侵食し始める。
どうしようもなく、怖い。……嫌だ。学校に……行きたくない。
一度『行きたくない』という感情が芽生えると、その意識は一気に私の身体を駆け巡り、結果一つの案が浮かびあがった。
そうだ、行きたくないのなら、行かなければ良いんだ。学校が終わる時間までどこかで本を読みながら過ごして、そのまま家に帰れば良い。
普段は何事にも優柔不断な私も、恐怖から逃れるための行動に関しては決断が速かった。
すぐさま学校へと向かう道から逸れるように、近くにあったどこに続くかもわからない小道へと進路を変える。
別に、どこに続こうとも構わない。どうせ徒歩で進める距離なんてたかが知れているはず。
いくら通ったことのない道を歩み続けていようとも、どこかに道標となる看板か何かの一つや二つ設置されているだろう。
行き交う人々の視線を避けながら、細い小道を進む。
目的地はない。今はただ、本を読むのに集中することのできる場所を求めるだけ――。