Appetite is fearful.
食欲は恐ろしい。
いや、本当に恐ろしい。
―加―
しかし、俺は右手で、アレンは左手で整理券を掴んでいて、互いに片腕が使えない。
「整理券をどっかにおくから俺に任せてくれないか?」
「整理券をどこかにおくから僕に任せてくれないかい?」
何だ、考えてることは一緒か。
「ハハッ!!」
「ハハハ!!」
思わず笑ってしまう。
その次の瞬間、アレンが動く。
アレンは右足で回し蹴りを顔面に狙ってくる。
「容赦ねえな!!」
それを上体をそらしてかわし、俺はアレンの左肘に手刀を打つ。
だが、アレンはそれを右手で受け止めてひねる。
「痛い痛い痛い痛いって!!」
キリキリとアレンがねじ上げる。
「早く整理券を放したほうが身のためだと思うよ僕は」
「口が裂けても言ってたまるかっての」
俺は足を振り上げて食券を握っている手を蹴る。
「うわっ」
その勢いで二人とも手を離し食券が宙に舞う。
「この隙に!!」
その間に掴まれた手を振りほどき、舞う食券を掴もうと手を伸ばす。
だが、その手が何かに阻まれるように止められてしまう。
「一度蹴り上げてもう一度掴むつもりかい? なら、ちょうどいい」
アレンがそう言う。
「ちょっと覚えた技を使うタイミングを見計らっていてね」
俺の腕は、何かに引っ張られるようにして動かない。
一瞬、キラリと光る物が見える。
……まさか!?
「何て名前をつければ良いのかな。でも、まだまだだね。片腕くらいしかまだ止められない。しかも全力でだ。面白そうな技だったから頑張って覚えたけど、もうこれは使わないな」
アレンの左手には、細い糸が巻きついている。
「お前、改めて思うが、すげぇな」
「そりゃベッドにずっとくくりつけられたりとかしてたからね……」
そうか、アレンはなんだかんだで一番マリーさんのお世話になっていたのか。
だからワイヤーを操ることが出来るのか。
「じゃあ、この整理券はもらっていくね」
そうしてアレンが食券を掴もうとする。
だが、その時パン、と音が鳴って整理券がどこかに弾かれる。
「空砲でもこの威力か。なかなか良く出来てるじゃねぇか」
廊下の端から、男の声が聞こえる。
忘れもしない。アイツの。
「ガキ共、面白そうなことしてるじゃねえか」
手には小さめのライフルを握り。
廊下の端からこんな小さな整理券を破れないような場所に撃てる男は、少なくとも一人しか知らない。
「あぁ、学食戦争か」
男は、少しずつ二人に近づく。
「面白そうだな。ちょっと混ぜさせてくれよ。二枚目が欲しくなった」
「こんの……、ゼロ狐……」
立っていたのは、フォックス・F・ゼロシルバーだった。