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Not Only But Also  作者: 加減乗除
第2章 護衛編
82/106

45話 老いたる馬は道を知る

―減―

「キョウさん……」

「何だ……」


「何で倒れ伏してるんですか」

「もう無理だ。もう駄目だ。もたねえ」

 キョウさんは倒れ伏したまま動かない。


「マリーさん、キョウさんは……」

「私は拘束術式の解析に忙しいんです。それに、キョウのこれはいつものことです」

「そうすか……」


「くそおおっ!」

「!?」

 聞き覚えのある声がして上を向くと、クロウが窓を割って飛び出しているところだった。


「やはり、クリスタルの部屋に!」

「オギ! 見て、クロウの少し向こう!」

 拘束が解けかけているメリアが顎で上を指す。


 見ると、クロウが追っているのは、あの部屋にあった漆黒のクリスタルだった。


 クリスタルが……飛んでる!?


「どういうこと!?」

「わからない。マリーさん!」


「恐らくクリスタル自身の防衛機能が働いたのでしょう。あのままでは、クロウを取り逃がすだけではなく、クリスタルまでもが行方不明になってしまいます」

「でも、キョウさんはダウンしてるし、まだ俺達の拘束も解けきっていない……」

 そう言いかけた時だった。


 急に、空中で浮遊していたクリスタルが黒い光を放ち、それがクロウの胴体を貫いた。


「ぐあああっ!」

 クロウが苦痛に声を上げる。


 クリスタルはなおも飛んでいく。


「オレガノ! 探索魔法を!」

 メリアが呼びかけたが、オレガノは顔を伏せたまま答えない。

「どうしたの!?」

「広域呪術式を……拘束されていたから……、魔力の消費が……」

 なるほど。クロウは解呪だけではなく、拘束も術式にかけていたらしい。

 どうりでオレガノがさっきからひと言も喋らないわけだ。


「まだです!」

 マリーさんが片手を空中のクリスタルに向けた。

 すぐに、シュル、という音と共に細い糸がクリスタルを捕縛する。


「よし! クロウが動かないうちに回収を……」

 が。


 急にクリスタルから火が吹き出し、糸を焼ききってしまった。

「そんな!」


 クリスタルは何事も無かったかのように、急にスピードを上げると、屋敷の外に飛んでいった。


「……ふっ」

 上空のクロウが滞空したまま、笑みをこぼした。


「封じられてなおこの威力。……やはり素晴らしい。必ず……手に入れてみせる」

 そう言ったクロウは、素早く身を翻すと、「高速魔法:肆式」と呟き、次の瞬間、その姿は忽然と消えていた。



――――――――――――――――――――――――――。


「それは大変なことになったね」

 自分の腕や足を、曲げ伸ばししているアレンが、天井と床にジャンプして交互に手を着くという、さながら大道芸のような動きを始める。


「何だよ、アレン。他人事みたいに」

「とはいっても、僕は実際クロウさ……クロウの物捕り劇は見てないわけだし。ああ、物捕り劇って捕まえた場合に言うんだったっけ」

 しかし、あのクリスタルは一体なんなのだろうか。


 魔法が掛かっているにしてはやけに防衛性能が高かった。

 あのクロウの魔法をものともせず、マリーさんの糸を焼き切り逃げたのだ。あれ自体に相当な魔力が込められているに違いない。

「それは……どうなんだろうね」

 アレンがいぶかしげにこちらを見る。


「どうって……何がだ?」

「いや、ふと思ったんだけど。あのクリスタル、ただの宝石じゃないんじゃないかな」

「宝石じゃないなら、何なんだよ」

「そこまでは僕にも分からないよ」

 アレンがどさっとソファーに腰掛ける。


「お待たせしましたっ!」

「お連れ様です」

 いつぞやの二人組のメイドさんがドアを開けて、俺達が待っていた玄関ホールに入ってくる。


「待たせたわね」

「……マリーさんに……話を聞いて、いたから」

 そのあとに、メリアとオレガノが続く。


「マリーさんに?」

「ええ。あのクリスタルについてだけど、アレンが治るまでの間、使用人総出で書物庫を捜しまわったらしいわ」

 メリアが手のひらに火の玉を出しながら言う。

 極地とか行ってもこいつだけは死にそうにないな。

「それで? 何かわかったのかい?」

 隣のアレンが言う。


「あのクリスタルは……古代に、シオンさんの祖先が……“何か”を封じ込めたもの……らしいわ」

「何か?」


「おそらくは、何かの魔物の類でしょう」

 上から声がし、ホールの螺旋階段からシオンさんが降りてくる。

「そういうことね」

 メリアがシオンに駆けよっていく。


「メリア、みなさん。今回は本当にありがとうございました。クリスタルは現在、マリーとキョウを筆頭に、捜索を行っています。今回は事なきを……得ているとは言い難いですが、みなさんにはとてもお世話になりました。ぜひ、また、今度は依頼ではなく、お友達としていらしてください」

「堅苦しいわね、シオン。こういう時は、素直にまた来てねって言えばいいの」

 メリアが笑いながら屋敷のドアに手をかける。



 行方をくらました漆黒のクリスタル。

 今だはっきりとした目的のわからないクロウと、その陰にある集団。

 クリスタルに封じられているという“何か”。


 分からないことばかりだが、依頼が終了した以上、名残惜しいが俺達は一度、学院に戻らなければならない。

 だが同時に、俺達は確かな何かを感じていた。……それは、これから何かが始まるという予感。


 休学届を準備しておく必要がありそうだな。

「そんな事態にならないといいけれど、ね」

 隣を歩くメリアが言う。


「まあ、今日はオギの単位入手を記念して、僕たちの部屋で乾杯でもしようじゃないか」

「それも悪くないな」


 今はまだ、嵐の前の静けさに、過ぎない。

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