35話 轍を踏む
一気に行くぜ!!
―除―
「もしかして、全部倒したのか?」
「まぁ……多分」
オレガノはそう対応してから
「でも気を付けて。まだまだ向こうが用意した罠はあるかもしれない……」
と続けて、身を翻して去って行った。
「……これらを仕掛けたタイミングはいつなのでしょう」
突然、シオンさんがそう言って難しい顔をした。
「どういうことですか?」
「いえ……ここには優秀なメイドと執事がいます。そして魔術に関してはクロウの手にかかればどうということもありません」
「ということは、クロウさんなら使役魔法にも気づくことはできた……となると」
「ええ。ですから、これを仕掛けたのは先日の連中……ということになります」
……なるほど。
それは間違いなくそうなのだろう。
「だとしたら、難しく考えることはないのでは?」
つまり、連中はここにやってきたときにそれらを仕掛けた。そして去って行った、ということになる。
それで正解なのだから。
「いえ……あの……」
俺の対応にちょっと口ごもるような態度をとるシオン。
「何ですか?」
「いや……」
どうしたんだろう?急にこんな対応をとるなんて。
「おいおい、オギ。わからないのか?やれやれだな」
そう言って天井から、アレンが降り立った。
「……俺はもう驚かない。驚かないぞ……」
自分に言い聞かせる。それから、
「どういうことだよ、アレン」
とアレンに尋ねた。
「シオンさんはお前の間違いを正すと、オギのメンツ丸つぶれだから、どう柔らかく言ったものかを考えているのさ」
アレンはそう言ってにやりと笑う。そしてシオンさんは「図星!」という顔をした。
マジか……。
「で、どういうことなんですか?」
「あ、いや……別に私は」
うむ、そんなことないことにして何とか逃げようとしているようだが、表情を隠せていない。
「僕の口から説明しますよ。全部聞いてたから」
そう言ってアレンは笑う。
全部聞いてた……って。
お前それ俺の後ろから入ってきたってことだよな?
はぁ……。
「いいかい?オギ。どのタイミングで仕掛けたかはわかったろ?先日、連中が侵入してきた時だ」
「まぁ、そうだろうな」
「でも、そんなことして意味があるのかい?」
ニヤリと笑った。
「意味……?」
「だって、彼らの行動から――特にシランの発言からしても上の者は用意周到にここにやってきたわけだろう?」
「ああ。そうだな」
「てことは、ここでミッションは成功。あのクリスタルは持ち帰ることができるし、この屋敷は破壊して終わる予定だったってことだろ?じゃあ盗聴器なんて仕掛ける必要は無い」
「あ……」
そうか。その通りだ。
あいつらは成功することを前提のような行動――それこそ俺たちを殺しにくるような動きで戦いやがった。
負傷者がほとんどいない。理由は『死人』か『無傷』かだ。
また、盗聴器を仕掛けるなら建物を全力で壊す必要はない。
「……どういうことなんだ?」
「さあ。僕にはそれ以上はわからない。ただ、可能性としてはまだ攻撃にくるかもしれないってことかな――」
「話は終わった?」
そう言って扉を開けて怖い笑みを浮かべたのは、マリーさんだった。
「げ」
「アレン君、わかってますよね?」
「……イエス」
アレンがおびえながら静かに近づく。そしてマリーさんにヘッドロックを食らう。
「うげ」
「さっさと寝なさい」
コキ。
という音がして、アレンは気を失った。
おいおい……この女……。
「ああ。そう、大事な話があります」
マリーさんはそう言ってシオンさんの方を見る。
「クロウが帰ってきましたよ」
「クロウが!」
シオンさんの顔がパァっと輝いて、それから走り出した。
「慕われてるんだな……」
「昔からずっと一緒に行動してきた執事ですし。私とは年季が違うのですよ」
マリーさんはそう言って、笑みを浮かべる。それから、アレンを担いで去って行った。
「ふむ……」
俺もクロウさんのところに行くことにしようか。
クロウさんとシオンさんはまだ門のところにいた。
「おかえりなさい。クロウさん」
「ああ、帰ってきましたよ。それにしても……」
そう言ってクロウさんは屋敷の方を見た。
「タイミング悪くやってきたようで」
「すみませんね」
「ああ、大丈夫です。お嬢様にお聞きしましたよ。皆頑張ってくれたと」
まぁ、誰がどうなったかは知りませんけど。
と、若干冷たく言い放った。
「クロウ。早く入って。体休めないと」
「お気づかいありがとうございます。お嬢様」
そう言ってクロウさんは笑った。
「すぐに執事とメイドを集めるわ!」
その笑いに喜んだのか、シオンさんは笑顔になりそして走って行った。
「クロウさんでも笑うんですね」
「ええ。人ですから」
「あ、そう言えば聞きましたよ。三本柱の話」
「……あぁ、そのことですか」
クロウさんはさらに笑う。
「まぁ、今はキョウさんも負傷してしまって、三本でもなんでもないですけどね」
「そうですね」
「まぁお酒を飲める元気があれば大丈夫でしょう」
「ですね――」
……え。
俺は固まって歩みを止めた。
「どうかしましたか?」
「……どうして……」
「はい?」
俺は唇が震えるのを感じながら、必死に口を開いた。
「どうしてアンタが、キョウさんの怪我を知っているんだ」
来たコレー!
―除―