33話 歓学院の雀は蒙求をさえずる
諺の意味は、普段から身近に見たり聞いたりしていることは、いつの間にか覚えてしまうというたとえ。
だ、そうです。
―減―
――しかし、俺達はクロウさんが帰ってくるまで何をすればよいのだろうか。
俺は……そうだな。
剣でも稽古するかな。兵士もいることだし。
翌日になって、アレンが着々と回復しているのを見に行った俺は、その後、一人で四階の金庫部屋に向かっていた。
……いや、特に理由はないんだが。あの時の戦闘に何かひっかかるものがあったんだよな。
ドアを開け、中を確認する。
「……あら?」
中には、乾いた血だまりと、窓や家具の破片。現場はそのままだな。
そして、その前に立つシオン嬢と、数人の執事とメイド達。
「シオンさん。なんでここに?」
そう聞くと、シオンさんは困ったように微笑んだ。
「私はこの御屋敷の主ですよ? 御屋敷で起こったことは私が責任を持って処理しないと。それに、こういうことはよくあるんです」
まあ、普段はほとんどクロウがやってくれるのですけれどね。とシオンさんは続けた。
「しかし、ここはその……」
もう乾いているとはいえ、血や肉片が飛び散っていた場所だ。
俺のように戦闘を生業としているような学院の生徒とは違って、いわゆる深窓の令嬢レベルの人だろうに。こんな現場を見せて良い物なのだろうか。
「御心配には及びませんよ」
シオンさんはそう言うと、こちらに近づいてきた。
「しかし、今回は手強れが相手だったようですね。メリアもあなたもご学友も、ご無事でなによりです」
「そりゃあ、どうも」
しかし、シオンさんの方は大丈夫だったのだろうか。
一応あの時オレガノに任せはしたが、その後のことは聞いていなかった。
「私はいたって健康ですよ。賊が侵入した時点で、周りに執事が待機していましたから」
警備にはやはり問題は無かったようだな。
しかし、連中のなかには魔術師もいたはずだ。
奴らはどうして罠魔法をくぐり抜けられたのだろか。
俺が気になっていたのはそこだ。
「そうですね……。私もそればかりが気がかりでここを調べていたのです。もしかすると、解呪系の魔術を使う相手がいたのかもしれません」
解呪か。
呪術師とは対極に位置する、稀有な魔術。呪いや、仕掛けられた魔術を打ち破る術式だ。
上位の呪術師もこれが使えるが、呪う方に力を注いでいることもあり、解呪の能力が高い授受知氏は少ない。
それこそ、その解呪に全ての魔力を使っているような相手でなければ、ここの高度な罠魔法の突破は困難なはずだ。
「どちらにしても、相手がこれまでとは違う、高位の魔術を使い、陽動をも用意するほど人力のある集団だということは確かです」
シオンさんは難しい顔で言った。