32話 酒は百薬の長
適度な量のお酒であれば、身体に良い、という意味。
適度な量ですよ?
という今回はお酒の話。
―加―
さて、途中から飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎの次の日。
俺と屋敷の人たちは焚き火をした後、それを中心にして眠っていた。
「ほら、お前ら起きなさい。朝食は用意してやったから、仕事仕事」
フライパンをガンガンと鳴らしながら、マリーさんが俺達の焚き火の後の所に来た。
「二日酔った……、頭ガンガンする……」
オギは兵士達のアルコール度数の高い酒を吐息で当てられ続け、少し吐き気と頭痛がする。
「飯だぁ!!」
兵士達は飛び起きてマリーさん以下メイドさん達&オレガノメリアコンビの作った料理に走り出す。
「お前、酒も飲んでないのに二日酔いか?」
オギの元にキョウチクトウさんが寄ってきた。
キョウさんの怪我はアレンよりよっぽど酷い。
右腕と肋骨三本、左足の骨を折っているそうだ。
その割に普通に歩いていた。
ただし包帯ぐるぐる巻きで松葉杖をついてだそうだ。
「大丈夫なんですか?」
「ん? かすり傷だろ?」
かすり傷じゃないから折れてるんじゃないんですか?
「いや、強かった。久しぶりに俺もこんなに怪我をした」
「普通絶対安静ですよ……」
ちなみにキョウさん、宴が始まった辺りからこの席に参加している。
「お前ら、俺とこの少年の分の朝食は残しとけよ!!」
『はい!!』
どうやらキョウさんは相当支持されているようだ。
「あ、キョウ」
「げ」
と、話している最中にマリーさんがこっちを向いてキョウさんに話しかけた。
「応援くらいなら良いけど、ベッドから出るなって言ったわよね?」
修復工事の場所には似つかわしくないベッドが置かれている。
これはキョウさん用のベッドだ。
「は、いやー……。ほら、百薬の長っつってな? 酒は身体に良いんだよ」
「へぇ。火をつければ燃え出すような酒をビン一本飲むと、骨折は直るのかしら?」
そういえば、確かにちびちび飲んでたような。
結局ビン一本飲んだのか。
「あ、あれはレモンハートって酒でな、アルコール度数は知ってるだろ? たったの40度だよ」
たったの40度?
それをビン一本?
やっぱりこういう傭兵上がりの人たちは酒に強いんだろうか?
「何言ってるのよ」
それをひややかな目でマリーさんが返す。
「私の部屋からビンが一本なくなってたわよ。レモンハートがね。犯人はどんな手を使ったのかしらね? 何故か大きな穴が私の部屋に開いていて、どこかに繋がっているようだったけれど?」
マリーさんの目線が険しくなる。
「そ、それが俺とは限らないだろ?」
明らかにキョウさんは動揺していた。
「大きな穴を通ってきたら、何故か離れのあなたの部屋に着いたわ?」
キョウさんの肩がびくっと震えた。
「今までにも私の部屋から酒がなくなることはあったけれど、何故かその酒があなたの部屋にあったわね」
登場人物がどれくらい危険な状況かは、汗を見れば分かるという。
恐る恐るキョウさんの顔を見ていると。
ダラダラダラダラ。
手と肩ががくがく震え、顔は青ざめ汗が滝のように流れていた。
圧倒的な危機の様だった。
「さて、もう一つ言わせてもらうわね。私の部屋から盗まれた酒は確かにレモンハートだけれど、それは75.5度の方だったんだけれど?」
「ごごごごめんなさいっ!!!!」
一瞬でキョウさんが土下座した。
「75.5度ぉ!?」
度肝を抜かした。
そんな酒を一日で飲み干したのか、この人は?
「謝って、私の酒は帰ってくるのかしら?」
「ほ、ほら。シオンお嬢様に頼めば!!」
「そんなことできるわけ無いでしょ。私の部屋のお酒は、ちゃんと自分のお金で稼いだものなのよ?」
目から怒りがほとばしっている。
「キョウチクトウ、言い渡します」
「は、はい」
土下座した状態で答える。
「朝食抜き、そして」
マリーさんが指とくいっとひっぱると、ベッドが近づいてくる。
「ま、待ってくれ、それは!!」
キョウさんはそのまま引きずられるようにベッドへと貼り付けられてしまった。
「一週間は貼り付けられてなさい。絶対安静で」
「ま、待ってくれ!! 動けないのは暇すぎる!! お前達、助けてくれ!!」
キョウさんは必死な瞳で仲間の兵士達を見つめる。
兵士の間ですこし動揺が走る。が。
「じゃあ皆に聞くけれど。キョウチクトウは相当手負いでろくに体術も出せない状況、対する私は臨戦態勢でワイヤーも装備しているけれど? あとね――――」
そこでマリーさんが微笑む。
邪悪に。
「飯抜きになるけど♪」
『頑張ってください団長!!』
その声は屋敷に響いた。