6話 だがこの世界、良い物には棘がつきものだ。
加減乗除です。
6話目になります。
―減―
――翌日、俺とメリアは寮長に頼まれた繭茸を探しにセンロッポン谷を訪れていた。
ちなみに今は休憩中、昼飯タイムなのだ。
「なかなか見つからないわね……」
メリアが地形魔法で谷の疑似映像を目の前に出す。
「このあたりだと思うんだけどな……」
俺はサンドを食べながらそれを眺める。
……しかし、メリアと依頼に行くと大抵ろくなことにならないんだよなぁ。
この学院に入学して数カ月。ルームメイトになったアレンは良い奴だし(ほとんど部屋に居る所は見ていないが)、戦士科の連中もなかなか良い連中だ。
だが、この幼馴染との腐れ縁はどうあっても切れないのだ。
前の依頼も大変だった。実にひどかった。
二週間ほど前のことである。
俺は、なんだかんだでメリアと二人組を組んでいるのだ。それまでの経緯は今は問題じゃない。
それまでは、俺が程良く単位の稼げそうな依頼を受けていたのだが、その日はメリアが依頼を受けてきたのだ。
内容は、『セノン山にある小竜の巣に行き、小竜の卵の個数を確認すること』。
一見楽そうな依頼だが、一歩間違えば親の成体の竜と戦わなければならなくなるのだ。この大陸では竜族が生態系の頂点に立っている。
その竜と闘うことすなわち、自殺行為以外の何物でもないのである。
単位も足りなかったことだし、しぶしぶ了承したのだが、それがまずかった。
何のことはない。セノン山の頂上付近で、遠目に小竜の巣を確認しようとメリアが視覚強化の魔法を使ったのだ。
そしてその魔力を、上空を飛んでいた親の竜に察知された。
竜の持つ魔力は人間の持つそれの比じゃない。それが何十、何百年と生きた成体の竜ならなおさらだ。
……戦うとか戦わないとか、そういう問題じゃなかった。これで竜が人語すらをも理解する賢豪な生き物じゃなかったら俺の人生はあそこで終わっていただろう。
結局、土下座までして許してもらい、精神的にボロボロになって俺達は学院に帰って来たのだ。
本来、依頼は人数制限が掛けられたり、あまりにも多くない限りは何人で受けても構わないのだ。勿論、独りで受けても問題は無い。
だが、「訓練試合」にはある程度実力がないと一人では参加できないことや、寮が二人部屋(ちなみに男子寮と女子寮の行き来は夕方になると出来なくなる)であること、学院が他分野の人間との連携を推奨していることなどから、意識しなくても大抵の生徒は二人かそれ以上の人数で活動するのだ。
俺とメリアもその内の一組、というわけである。
回想終了。メリアは相変わらず地形魔法とにらめっこをしていた。
「……谷の岩壁に生えてるのかしら。オギ、ちょっと登ってみて」
「何で俺が登るんだよ」
メリアがはあ、とため息をする。
「……私の属性じゃ飛行滞空は出来ないの。ほんと忘れっぽいわね。相棒の戦術くらい把握しときなさいよ」
「……すまん」
そうだったそうだった。メリアの基本属性は炎と水。異なる属性を組み合わせて色々なことが出来る複合魔法を使っても空中飛行は出来ないのだった。
手ごろなところへ手を伸ばし、岩壁を登る。
しばらくすると、少し広い岩棚に出た。
周りを見回すと…………あった。岩棚の奥、おそらく一日中陽の当らないであろう位置に、蛾の繭の様に白く糸を巻いたような茸が生えている。
「おーいメリア、あったぞ!」
下で待機しているメリアに声をかける。
「根元からもぎ取って! あるだけ持って帰るわよ!」
「了解!」
とりあえずそこに生えていた物を全て手に入れる。
その時だった。
「……うおっ」
いきなり背後から強烈な突風が吹きつけ、思わず体制を崩してしまう。
もう一度、大きな突風。
今度は身体を支えきれなかった。風圧に耐えきれず、体が岩棚を離れ、空中へ投げ出される。
「うわあああああああああ!!」
ああ、まずい、これは死ぬかもしれないぞ。
そう思って下で待機しているであろう幼馴染の方を見下ろす。
「呪文詠唱。水よ、滝渦の姿をとり障壁となれ!」
そうメリアが叫ぶのが聞こえた次の瞬間、体が水の渦に包まれた。