20話 売り言葉に買い言葉
高校生クイズに油断しました。
時間も忘れてはらはらして観てました。
ごめんなさい。
―加―
と、かっとなっていってしまったけれど。
しょうがないよね。
「威勢が良いなぁ!! よっしゃ、お前が勝ったら謝って土下座して逆立ちでこの屋敷を一周してやるぜ!!」
心底馬鹿にしたような目で俺を見る。
「ハハッ、気前良過ぎだろコマクサさんよぉ」
「じゃあ俺はコマクサさんに5メルツ」
「俺もコマクサさんに9メルツだな!!」
「おいおい、賭けになるわけ無いだろ? こんなひょろっちいのがコマクサさんに勝てるわけが無いだろうがぁ」
取り巻きの男が次々と囃し立てる。
コマクサ、というのが目の前の男だろうか。
ちなみにメルツというのはこの国のお金の単位。
つまり、この一戦をネタにこいつらは賭けをしているのだ。
「なら、俺はそこの少年に50メルツ」
その声は、取り巻きの後ろから聞こえてきた。
歩いてくるその姿を見て、取り巻きの者達の背筋が伸びる。
白い髪に明るそうな目、とても背筋を伸ばすような相手ではなさそうに見えた。
「だ、団長……。これは、力試しという決闘で……」
コマクサが小さくなっている。
「どうした? 賭けにならないから、そっちの少年に賭けてやったんだぞ? さっさとやらねぇか」
団長と呼ばれている男はどうやら決闘推進派のようらしい。
「は、はい!!」
コマクサも良い返事を返す。
「じゃ、お前ら適当に賭けてな。俺は50メルツをこの少年だ。後、ついでだから決闘の審判もしてやる」
団長は俺とコマクサの間に入り込むと、両手を広げて俺達二人を少し下がらせた。
「俺はそこの少年に賭けちゃいるが、審判に狂いなんて出すつもりは無い。それは、お前達が証人になってくれ」
団長は取り巻きを見る。
「は、はい!! もちろんでさぁ!!」
いかにもこびへつらってそうな口調の男が一人大声で答えた。
「じゃあ、ルールを説明する。場所はこの練習場。くれぐれも機材や床を壊さぬように。時間はそうだな、十分だ。決着はどちらかがギブアップするか気絶するか。相手を殺すような攻撃、魔法は厳禁。いいな」
「おうよ!!」
「あぁ、続けてくれ」
早くこの男を倒したい。
「コマクサが負けたときは謝って土下座して逆立ちでこの屋敷を一周する。少年、負けたときはどうする?」
「今までの無礼をわびてここから出て行けば良いのか? もう、そんなんでいいだろ」
さっさと始めろ。
俺は、
俺は、
こういう奴らが。
昔から大っ嫌いなんだよ!!!!
「ハッハッハァ!! ほえずらかいても知らねぇからなぁ!!」
「コマクサ。黙れ、少年、一つアドバイスだが」
団長はこちらを向いて話す。
「今の少年の目は曇っているぞ?」
「だったらどうなるんですか?」
「うんにゃあ、別に? 一応言っておくけど、コマクサは副団長だからね?」
「だから、それを話して俺に何の得があるんですか? というか、アドバイスが一つじゃありません」
「だな。よーし、始めるかー!!」
団長は元の場所に戻り、右手を下ろす。
「3,2,1、始め!!」
そして団長は思い切り右手を振り上げた。
「名門学園の生徒だからって、いい気になってんじゃねぇ!!」
コマクサは俺に突進するようにしながら、剣を振り上げてくる。
剣は騎士が持つような太く両刃になっている。
構えは流石にこういうところを警備するだけはあり、よく様になっていた。
だが、かわせない訳じゃない。
オギは前に進みながらぎりぎりのところで左に避ける。
すると、後ろで何かが爆裂したような音が響く。
コマクサが振り下ろした剣の威力で、庭の地面が抉れていたのだ。
「まったく、威力だけは馬鹿でかいな」
オギは前に出ながらコマクサの腹に右手を当てる。
その瞬間、手を当てた場所から魔法陣が現れる。
「手前、何しやがった!!」
コマクサはすばやいバックステップで下がると、またオギに向かって剣を振り下ろす。
「うっせぇ黙れ」
オギは持っていた短剣をその両刃に当てる。
「へし折れ――――――、ない?」
コマクサが両手で振り下ろした一撃を、オギは右手の短剣で止めていた。
「俺を本気にさせたな?」
左手を握り締める。
「魔法を解放」
オギがそう言った瞬間、またコマクサの腹部に魔法陣が現れる。
そこ目掛けて、オギは殴る。
その一撃で、コマクサが数メートルも吹っ飛んだ。
「なっ!?」
取り巻きもそれには仰天している。
「やれやれだな、まったく」
団長はふぅ、と溜息をつく。
「――――勝者、少年、敗者はコマクサだな」
「ちょ、ちょっとまて!! 俺はまだ負けて――――」
「頭を冷やして」
団長はその瞬間。
吹っ飛ばされながらも頭に血が上り走ってきたコマクサの頭を掴み。
「考えろぉ!!!」
綺麗な弧を描いてその掴んだ顔面を庭に叩き付けた。
「えーーーーー!!!」
さっきの怒りが彼方に吹っ飛ぶくらいびっくりした。
「俺はルールにちゃんと言っただろ? 床を壊すなってな。何だこれは? お前の剣で床の地面が抉れただろうが」
明らかに団長が地面に叩きつけてへこました一撃のほうが傷が大きいんですが!?
「ほら、お前ら。勝負はついたぞ」
団長は取り巻きのほうを向いて手を出す。
「い、一体なんですか……?」
その動作の意味が分からない。
「俺はこの少年に50メルツも賭けてたんだぜ? さっさと金を出せ」
そのときの団長はとても凶悪な笑みを浮かべていた。
その後団長が俺と話がしたいと言ってきた。
断る理由も無いので、庭園にあるベンチで座って剣の素振りをしている兵士を見ながら話していた。
「ところで、団長さん。お名前は?」
「俺? あぁ、俺はキョウチクトウ、長いから下の奴らは団長つってるがな。ところで、俺も聞きたいことがあるんだが、あの魔法は、一介の兵士、戦士科の者がやすやすと使えるようなものじゃないと思うんだが?」
「……今時は、あれくらいも頑張って覚えるんですよ。戦闘用の魔法は戦士科ではそれなりに覚えるんですよ、キョウチクトウさん」
「キョウさんで構わんよ。しかし今の言葉、間はなんだ?」
キョウさんの目が鋭く光る。
その目は、深い闇を湛えていた。
「間、何のことですか……?」
「……、俺、いやここにいる兵士はな、元々ごろつきの傭兵くずれみたいな奴等なんだよ。だから、少年みたいな名門学院の出なんて奴は気に食わないって奴も多い。そんな俺らをクロウさんは雇ってくれたんだから、あの人は本当にいい人だ。それはさておき、俺はそういう了見で、色々と少年なんかよりも経験と修羅場をくぐってきたわけだ」
目は笑わない、真剣そのものだ。
「だからさ、そういうの。何か隠してるってのは分かるんだよ。まぁ。空気とか声の震えとかな。だが、俺もお前のそういう気持ちも分かる。言いたくないことなんだろ? ならこれ以上詮索はしないさ」
そこでようやくキョウさんは目から笑ったいい笑顔になる。
どうやらこの屋敷には油断ならない人が多い。
「そういうことが分かったから、あの時は俺に賭けたんですか?」
「そうなるな。お前のオーラはとても普通の学生には見えなかったからな。面白そうだったし」
最後の一言に本音がまぎれたな。
「良いじゃねぇか。win-winの法則ってやつさ。ま、話してみて分かったけどお前やっぱり面白いわ」
今の会話のどこに俺のオモシロ部分を発見したんだろうか。
「俺にまた話を聞きたくなったら近くにいるメイドちゃんとかに聞くんだな。じゃあな!!」
そこでキョウさんは立ち上がり、兵士達の元へ向かった。
「コマクサ!! さっさと始めねえか!!」
???
何か嫌な予感がする。
「団長? 一体何の話だ?」
「謝って土下座して逆立ちでこの屋敷を一周して見せろっつってんだよ!! さっさとしろ!!」
そういえばそんな約束してた。
すっかり忘れてたけど。
「本気でするんですか?」
「さっさと謝れや!!」
団長はまた頭を掴んでコマクサの頭を床に叩き付けた。
「少年、これでいいかい?」
すいません、そこまでは望んでませんでした。