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Not Only But Also  作者: 加減乗除
第2章 護衛編
54/106

17話 渇して井を穿つ

  総計54話目です。

 諺の意味は、必要に迫られてから慌てても間に合わないことのたとえ。

 また、時機を失することのたとえ。

 だ、そうです。


 ―減―

ふむ。要するに、この部屋にある金庫、シオン嬢、総じて言えば、この屋敷を守ればいいわけだ。


「そうね」

 メリアが返答する。

「だがメリア、俺達は何してりゃ良いんだ? 門の前は玄関の前でしかめっ面で立っていればいいのか?」


「そこまでしていただく必要はありません」

 クロウさんが即座に答えた。

「あなた方は基本的に屋敷の中や庭を歩きまわって頂いていれば結構です。見回り……パトロールのようなものでしょうか。自分の部屋に籠っている以外は、日中はそれで構いません」

 地獄耳か。結構小声だったんだが。


「夜はどうすればいいんですか?」

 今度はアレンが口を開いた。

「夜は……そうですね。できれば、なのですが……」

 そこでクロウさんはいったん話を切り、こちらに小声で囁いた。


「お暇がございましたら、お嬢様のお話相手になっていただければいいのですが。ああ見えてお嬢様は大変寂しがり屋でして……」

「クロウ!!」

 シオンさんが怒ったのだろうか、顔を真っ赤にして立ちあがった。


 クロウさんがおやおや……とでも言いたげに肩をすくめると、

「では、私はこれから屋敷を留守にしますので、今日はご自分の部屋でお休みください」

 流れるような動作で部屋を出て行った。


 ―――――――――屋敷、三階客室03

 俺に割り当てられてのは三階の角部屋であるこの部屋だった。


 一人に突き部屋が一つ。シャワールームあり。キングサイズベッドあり。ソファーあり。部屋の片隅には有名な書物を収めたタンスほどの大きさの書棚まである。

 まさに至れり尽くせりだ。こんな豪勢な部屋泊まったことないぜ。

 ……メリアの自宅? ああ、確かメリアの御家のエーデルワイス家もなかなかの地位にある一家なんだったか。だが、俺は一度もメリアの家に行ったことは無い。というか話を聞いたところで行く気が失せた。

 まあ、それについて今思い出す必要はないだろう。


 だがしかし、気になるのはクロウさんの言っていた『この屋敷にある黒水晶が何者かに狙われている』という情報だ。対魔法用の自動警備まであるのにわざわざ学院の生徒に依頼を出すということは、その黒いクリスタルがいかに重要なものであるかの明らかな証明でもある。

 それに、Aクラスの依頼を受けられるレベルの生徒が着ているとは言え、いくらなんでも詳細を話しすぎなのではないだろうか。

 そもそもクロウさんの話だと、黒水晶の情報を基本的には外部に漏らしていないらしいし。確かに、守るものが何なのかがはっきりしている方が俺達も動きやすいはずだが、でもそんなに簡単に口外していいものなのだろうか……。

 メリアがいたからか? 御家同士の繋がりがあるなら顔ぐらいは見知っているだろうし。

 考え過ぎか……? だといいのだが。


 そう考えた時、部屋のドアがノックされる音が聞こえた。

 誰だろうか。アレンか? そういえば誰がどこを警備するのかとか決めてなかったな。


 などと考えながらドアを開くと、そこにはメイドさんが二人立っていた。一人はボブカット、もう一人は肩まで髪を下げている。

「「オギ様ですね?」」

「は、はい……」

 おおう、なん見事なハモリ具合だ。

「お嬢様が」

「あなたとお話がしたいと仰っています」

「「来てくださいますよね?」」

「は、はあ……」

「「よかった!」」

 なんだこのメイドさん二人組。双子には見えないが。


「ではではっ」

「ご案内いたします。私たちについてきてください」

 そう言うと、二人は振り向いて、廊下をすーっと歩き出した。

 メイドさん専用歩行法でもあるのだろうか。音を立てないような。



 目測五階建ての屋敷は、予想通り、五階までしか階がなかった。

 そして、五階の廊下のつき当たりには、数時間前に見たシオン嬢の寝室のドアよりも大きい、木製の扉がそびえていた。

 語弊ではない。文字通り、そびえていた。でかすぎるだろ。

「ここは天井が吹き抜けになっておりまして」

「今日のように天気の良い夜には、星空を楽しみながらお茶ができちゃうのですよっ」

 へえ、珍しいな。

「きれいなんですか?」

「それはもう!」

 メイドさんが二人で扉に手をかけ、重そうなそれをさっと開ける。見た目ほど重くはないらしいな。


「ではではっ」

「私たちはこれで失礼いたします」

「はあ、どうも……」

 温度差のある二人のメイドさんは、俺が部屋に入ったのを確認すると、開けた時と同じようにさっと扉を閉めた。


 部屋は俗に言う室内庭園のようになっていた。

 おそらく五階のフロアのほとんどを使っているのだろう。低木や良い香りのする花、少し先には小さな川まである。どうなってんだよ。


 しばらく歩いていると、前方に少し広い空間が空いていた。

 円状に芝生が生えているその空間には、白いテーブルに、彫刻の施された白い椅子が二つ。

 椅子の片方には、ローブを着たシオンさんが、グラスにブランデーを注いでいた。


「どうしました?」

 歩いてくる俺に気付いたらしい、シオンさんがこちらに微笑んでいた。


「いや、何でもないです」

 しかし一応同年齢なんだよな。なんでさん付けで呼んでんだよ俺。

「ふふ。いいですよ、普通にお話になって」

 見れば、シオンさんの向かいには同じようにグラスが置かれていた。どうやら俺の分らしいな。

 促され、白い椅子に腰かける。


「ごめんなさい、こんな夜中に呼び出したりして」

「何で俺を呼んだんですか? おしゃべりならメリアの方が適任でしょう。幼馴染なんですし」

「敬語じゃなくていいですよ?」

 シオンさんが困ったように言う。言い変えよう気をつけよう。

「確かにメリアを呼んだ方が良かったかもしれません。でも、私はあなたに、あなたとメリアのお話を聞きたいんです」

「それはまた、どうして?」

「だって、メリアとは9歳の時に御家同士のパーティーで会ってからもしばらく連絡を取り合っていたんですけれど、メリアったら、あなたの話ばっかりするんですもの。一度、あなたがどういう人なのか知っておきたかったんです」

 今なんと?

 ……メリアの奴。俺の話を周囲にばらまくなよ。聞いたところによれば、お前のせいでエーデルワイス家での俺の株は尋常じゃない位に高いらしいじゃないか。ますます行く気が失せるわ。


「でも、話している時のメリアの声はとても楽しそうでしたよ」

「そうですかそりゃどうも」

「怒りました?」

「いや、別に。それより、えーと、メリアと俺の話……だったっけ」

「はい」

 確かに付き合いは長いが、それほどたくさんの出来事があったわけじゃないぞ。

 ただ、グリフォスに襲われたり竜に追われたり崖から落ちたり、小さい頃メリアに「火炎」の誤射で焼かれかけたりメリアが木から下りられなくなったりくらいのことならあったが。

「それが聞きたいんですよ!」

 目が光ってますよシオンさーん。

「……じゃあ、あれですね。俺とメリアが初めて会った時のことですけれど……」




「……という訳で、その時俺はメリアにそう言ってやったんですよ!」

「あはははは! それは聞いたこと無かったです!」

 いつの間にか思い出話はメリアの恥ずかしい話暴露大会になっていた。

 お互いに共通の話題であり、最も白熱する話題でもある。


 結局、俺達の大暴露大会は吹き抜けの天井から朝日が差し込み始めるまで続き、メリアが突進乱入したところでようやく終焉を迎えたのである。

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