7話 蝶よ花よ
加減乗除。
全然意味通して無いね。まぁ、この諺、私は好きですよ。
―除―
「あれは・・・・・・」
オレガノが呟く。
僕も自らの脳内図書館を検索する。
・・・・・・見つけた。
「バルキング・・・・・・」
「だね」
オレガノの発言に僕も同調してから、巨大な蝶を見上げた。
周りに居る小さな蝶は、『バル』と呼ばれる殺傷能力の高い蝶だ。そして名前どおり、それらの王とも取れるくらいの指揮能力がある巨大な蝶を『バルキング』と呼ぶ。
バル『キング』と呼ばれるのだから、巨大な蝶は『バル』の雄だ。繁殖されるほとんどの『バル』は雌で、その中で生まれた雄の『バル』と同時に繁殖された雌の『バル』とで、新たに繁殖されていく。
雄の生まれる確率は極端に低いが、一匹雄が生まれればそれで十分な繁殖能力があるので増殖する。
あまり関係ないような話に思えるが、そうでもない。
あそこにバルキングがいるということは、それに付随するように多くのバルが居るという事だ。
「おかしいわね・・・・・・」
と、シナモンさんは突然言った。
「何がですか?」
「確かにあの森・・・・・・アロネの森には、バルやバルキングが生息しているわ。ドワーフたちの森だから、木々も高々と伸びていて、あの子たちも隠れやすいでしょうしね」
「たしかに、あの森なら収まりそうですね・・・・・・」
僕は奥に見えている森を見た。
ていうか、化物まで『あの子』扱いか・・・・・・。
「けれどアロネの森にはそこまで荒れ狂うような怪物はいないから、ああしてわざわざドワーフたちの居るところに現れることは無いのよ。それにあの子達の殺傷能力を持つけれど、あれは攻撃を受けた際に防御するための能力だから・・・・・・」
「ということは、あの『バル』たちに何かが起きたと・・・・・・」
と、落ち着いていると
「シナモン先生!」
と遠くから髭を蓄えた、ドワーフの男性が来た。
どうもシナモン先生という愛称はサフランさんだけではないらしい。
「どうかしましたか?」
「森の怪物たちが、森を抜け出して中央に向かっている!!」
「・・・・・・中央!?」
オレガノの表情に焦りが浮かんだ。
その表情を見て僕も気付いた。
「まさか、ササガケですか!?」
「あ、あぁ・・・・・・」
ドワーフの男性は
ササガケ・・・・・・アンモルド大陸の中心に位置している都市。
ここまで言えば分かるだろう。
「僕らの学校が・・・・・・聖エンテルミナ学院が危ない!!」
僕らがそう言って焦っているのを知ってか知らずか。
バルキングはそんな僕らを煽るかのように、声とも言えない鳴き声を上げて、風を巻き起こし始めた。