5話 茶腹も一時
わずかなものでも一時の間に合わせになるというたとえ。
だそうです。
―減―
いまだアレンをにこやかに見ている二人を少し見て、オレガノが口を開いた。
「……火傷の薬の調合に使う薬剤が、足りなくなったの。分けて貰えない……?」
静かに、要件を述べる。
学院における薬物の扱いには、それぞれの系統学科とは別に、資格を得なければならない。
救護科では、この資格の取得が第一の目標とされるのだが、それはまた別の話だ。
ちなみにオレガノはその資格を入学した時から取得していたらしい。
どこか、そういう技術に特化した家の出らしい。
僕に言えたことではないか、とアレンは肩をすくめた。
「ああ、そんなこと。いいわよ。ちょっとこっちに着いてきて」
サフランさんがさっと翻して奥に向かう。
オレガノと、シナモン、そしてアレンもそれに続く。
「ええっと、火傷にはオルグニスの薬だから……、あった」
最後尾にいたアレンは、目の前の光景に驚愕を覚えた。
「うわ、これは凄いですね……」
大きな空間には右を見ても、左を見ても、奥にも、棚。
中には薬剤、薬草、瓶など、色々なものがきちんと整理されているのが見て取れる。
「……これらは、全部、シナモンさんが自分で作ったものなの」
オレガノが隣で呟いた。
「一人で?」
「そう」
「はあ……すごいな」
振り向いたシナモンさんがえへへ、と照れたように笑う。
「でも、整理整頓はサフランちゃんにやってもらってるんですのよ」
二人で成り立つコンビネーション、というわけか。
「……そう。互いが互いを支えあって、このコンビがあるの」
オレガノが同調するように首を縦に振る。
「……、はい、オレガノちゃん。また何かあったら、遠慮しないで言ってちょうだいね」
「はい」
にこにこした笑顔を向けてきたサフランさんに、アレンも笑顔を向けた。
「さあ、帰ろう、オレガノ」
「うん」




