1話 剛毅木訥仁に近し
加減乗除 38話。
第二章 突入
―減―
オレガノ捜索事件(事件ってほどの事ではなかったけれど)から二週間。
校庭は元通り平坦にならされ、戦士科棟の修復もあらかた終わっていた。
この学院の進級制度は基本的に単位制だ。優秀な生徒が依頼にひっぱりだこになるかららしい。
とはいえ、俺の幼なじみは「依頼は相棒と行く」などというわけのわからないルールを決めているらしいから、例外に当たる。
「はあ……、全く。何が戦士科棟が完全修復するまで、各自依頼を受けて社会に貢献しろ、だ」
遅刻した俺が急いで行ってももう掲示板にはろくな依頼が残ってなかったし。
……遅刻する奴が悪い? まあそりゃそうだろうけど。
部屋のベランダの手すりにもたれながらそんな事を考えてみる。暇だ……。
夜にベランダで風にあたるのも悪くないな。今度アレンにでも教えてやるか。
あいつ帰ってきたらすぐ寝るし。
「呼んだ?」
「おうわっ!?」
急に声がして横を見ると、アレンが手すりに手を掛け、ひょいっとベランダに登ってくるのが見えた。
「ただいま、オギ」
「おかえり。今日は何処に行ってたんだ?」
確か救護科棟にひっぱられていったオレガノからの八つ当たりはそろそろ下火になっていると聞いたが。まだ逃げてるのか?
「いや、その件はもう終わったよ。今日は隠密科棟で授業を受けてきたんだ」
学部ごとに一棟ずつ横長い塔みたいな校舎があるのはありがたい話なんだが、隠密科に必要なのかどうかは意見が別れるところだ。隠れてないし。
まあ一学科だけ扱いが違うっていうのは考えものだよな。第七学科じゃあるまいし。
「まあね。でも隠密科はそもそも人数が少ないから。広く使えてそこそこ便利だよ」
「それもそうか」
しばらく学院の先生勢の中で誰が一番怖いかを話し合ったり、俺がゼロのことを馬鹿にしたり、アレンの業を見せて貰ったり、俺がゼロのことを毒づいたり、たわいもない雑談をしていたが、ふと思い出したことがあった。
「なあ、アレン」
「なんだい?ゼロさんの悪口かい?そろそろ耳が痛いよ……」
苦笑いするアレン。そんなに酷く罵ったつもりはなかったんだが。
「いや、そうじゃない。アレンとオレガノ、ゴーレムの時に依頼に行ってたって言ってたよな。どんな依頼だったんだ?」
普段一日中部屋を留守して、どんな凄い依頼を受けているのかはよくメリアと疑問にしていた。これはチャンスだぞ。
「ああ、そのことか。そういえばまだ話してなかったよね」
アレンが部屋に入り、自分のベッドに寝転がる。俺は手すりに背をもたれさせ、室内の方を向く。
「あの時の依頼は、オレガノからの直接依頼だったんだよ」
「オレガノが依頼主だったのか」
どんな依頼だ? 見当もつかないぞ。
呪いのアイテムでも取りに走らされたのか。お気の毒に。
「う~ん。当たらずも遠からずって感じかな」
そう言うと、アレンはベッドから起き上がり、その場で腕を組んだ。
……なんかその姿勢、様になってるな。
「僕が依頼されたのは、ボディーガードだよ。知り合いのところに薬剤を貰いに行くオレガノのね」
そう言った次の瞬間、アレンは俺の隣で夜空を仰いでいた。
こういうことはしょっちゅうだから、さすがに驚かないぞ。
・・・・・・あれ?もしかして回想始まる感じ?