黙々怠惰
加減乗除で34話。
―減―
図書館に行くまでの間に、俺は入学したてのころに一度だけ入ったことのある図書館棟の間取りを必死になって思い出そうとしていた。
――確か、新入生を学科ごとに分け、先輩がそれを引率する形で学院案内があった時に一度だけ入ったんだったな。一度だけ。
なにせこの学院、前にも述べたような気がするが、生徒数が多い。必然的に、彼らの利用する図書館なるものは比例するがごとく、大きくなるのである。
五階建ての戦士科棟並みの大きさなのだ。正直言ってでかすぎる気も歪めないほどに。
そうこうしているうちに図書館棟の前に着いてしまった。
メリアに続いて俺もドアをくぐる。
……予想どうりだ。静寂。時折聞こえる人の足音。
俺は詳しく知らないし、ここで読んだ本なんて説明時間の間にこっそり読んだ一冊くらいなもんだが(しかも剣術の本だった)、ここに集められている本はそのジャンルがかなり多岐にわたっているらしいのだ。剣術に始まり歴史、神話、魔物に関するもの、職業や物語、大陸情勢や国に対する政治的見解の評論、果てには魔導書なんてものまである始末だ。
本の虫、というか。そういう人にとっては夢のような場所らしい。メリア談。
「オギ、思いつきで来たし、多分ここが一番有力だけれど……手ごわいわよ」
「……そうだな」
眼前に螺旋状に広がる階段と、そこから手を伸ばせば届く位置にある、巨大な本棚の数々を見上げながら答える。
いくらなんでも広すぎるだろ。首が辛くなる。
「あれぇー? その赤い髪に隣の長剣持ってるのは、もしかしてもしかすると、オギ君にメリアちゃんじゃないかな?」
静寂だった図書館に鶴の一声。
こんな空気読めないことをする人には一人しか心当たりがいない。
いや、まあここに来れば会うんじゃないかなーとは思っていたけれども。
そう思いながら右上の方を見上げると、
「あれは……図書委員長ね。さあ、帰るわよ」
速いな、メリアさん。
「おーいおいおい、それは酷いんじゃないのかなー?」
そういう上から響く。
とほぼ同時に、俺達の前に埃が舞った。
「うわっ……」
「きゃ……」
埃が晴れると、そこにはだぶだぶの藍色の制服に身を包んだ、ぼさぼさの長髪。
「図書委員長、シンス・レコルト……さん」
「そうだよー。よく覚えてたねー、感心感心」
そう言いながら、シンス委員長が俺の頭をなでなでする。
「先輩、ふざけるのはやめてください」
「あー、ゴメンゴメン」
メリアにたしなめられた先輩がにゃははーという感じで頭にげんこつをぶつける。
一応この人、女性である。ふざけ癖が抜けないのがたまに傷だがな。
「あ、そうだ先輩、ここに呪い師が来ませんでしたか? 女子の」
俺は本題に入る。
減を四字熟語で表すなら……。
冷静沈着、ところにより傍若無人、一部では虎視眈々でしょう、みたいな。要は一つじゃ表せないわけです。