18話 空洞化する、この世界。
加減乗除と18羽……じゃない、18話です。
―減―
――ゼロとの一件があった数日後。
俺はそこそこ単位もたまってきたので、とくに依頼も受けず授業を受け続けるという日々を送っていた。
――食堂。
「あー、眠い」
怠惰な日常というものは本当に空しい物で、こうして今の俺が眠気にさいなまれているのも、歪めないといえるだろう。
「――ギ」
あー、それにしても眠い。
「――ギってば!」
なんか依頼でも受けに行くかなー……。
「オギ。起きなさい!」
「母親か!」
突っ込みながら食堂のテーブルに突っ伏していた顔を上げると、目の前にはアルメリアがトレイを持っていた。
「大丈夫? ずいぶん眠そうだけれど」
「大丈夫じゃないぞ。今もこうして睡魔と死闘を繰り広げているところなんだ」
「まあ、そんなことはどうでもいわ」
冷たい幼馴染である。哀しいね。
「ねえ、掲示板の方が騒がしいの。食器を返すついでに見てこない?」
アルメリアはそういうと、俺の傍らにあった空の食器を乗せたトレイを自分のものに重ねた。
掲示板の周りには今まで見たことがないくらいも量の人だかりができていた。
周囲からは喧騒。
取り巻きは怪訝な眼。
「あの、何かあったんですか?」
アルメリアが取り巻きのうちの一人に声をかけた。
重そうな鎧を身につけている。いかにもな重戦士だな。もしかすると上級戦士かもしれない。
「ああ。一年の学年次席か。……いや、今日は異常に魔物の討伐依頼が多いらしい」
「魔物の……、学院の周囲のですか?」
「そうだな。ほとんどがそうだ。だから……見ろ」
そう言ってその重戦士が指さした方向を見ると、掲示板の前に群がっている人だかりの内のほとんどが、武器を身につけているのが見えた。
大剣、盾、銃など。戦士科や、他の学科の戦闘狂が一堂に会しているといっても過言じゃない状況だ。
「ずいぶんと……騒がしいですね」
「まあな。戦闘好きな連中はこぞって良い依頼を奪い合っているよ」
「あなたは行かないんですか?」
そうメリアが訪ねると、重戦士は鎧の継ぎ目からかちゃかちゃと音を立てながら苦笑した。
「俺はそんなに戦闘好きではないんでね。余った依頼でものんびり受けることにするよ」
そう言うと、鎧は向きを変え、食堂の入口に向かってゆっくりと歩いて行った。
「どうする?」
気がつくとメリアがそばに戻っていた、いちいち行動の素早い奴だな。
まあ、そういう迅速なところも、メリアの成績を底上げしている要因なのだが。
「そうだな……。今日はちょっと調子が良くないしな。俺は部屋で休むよ」
「そう? じゃあ、お大事に」
そう言うと、メリアは振り返って去っていこうとする。
「おいメリア」
「何?」
「お前は何か依頼を受けないのかよ。良いチャンスだぜ?」
そう呼びかけると、メリアは再び出口の方に身体を向き直しながら、
「私は、パートナーとしか依頼には行かないの。“約束”したでしょ?」
と言い、少し、彼女にしては珍しく、優しそうに笑った。
―――――――戦士科棟、四階。
とは言ったものの、数時間部屋で眠ってしまえば眠気なんてものはさっさと醒めてしまうもので、俺は上級生や戦士科の連中がほとんど依頼に行ってしまい、ガラ空きと言っていい程誰もいない廊下を歩いていた。
しかし、これからどうしようか……。
やはり部屋に戻るべきか。
授業はもう休むと連絡を入れてしまったし。
訓練場にでも行って、新しい剣の切れ味でも試すかな――。
そう、思った時だった。
突然、体中を縦に、横に揺さぶる衝撃が全身を襲った。
「うおっ!?」
思わず、地面に手をついてしまう。
地響きがしばらくして収まり、次の瞬間。
「「きゃあああああああああ!!」」
「――!?」
実習用の校庭の方から、今だわずかに学院に残っていた生徒たちの、悲鳴が聞こえた。