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Not Only But Also  作者: 加減乗除
第3章
106/106

17話 難解駄 1

なんかいだ。

―減―

「クッソ……あの大剣教師め……」

 痛む節々を労わりながら、俺は自室の扉を開けた。あらかじめ修理の依頼を教師科に回しておいて正解だった。

 ここの部屋のドア、本当によく壊されるからな。

 

 ゴルゼキアに挑発され、指導室に連れて行かれた俺は何故かあの大剣野郎と一戦交えることになった。

 いやまあ、確かに挑発に乗った俺にも非があるが、正直「実習を休んだんだ。なら、補習も実践をするしかねえよなあ?」なんて理屈には無理があったと思う。

 そう考えながら、自分のベッドにどさっと飛びこんだ。

「……やあ、オギ、お疲れ」

 アレンが目を覚ます。

「おう」

 そう返事し、俺も睡眠体制に入った。



――――――――――――――翌日。


 目を覚ますと、

「やあ、オギ」

 アレンが苦笑いをしながら立っていた。


「……ん。珍しいな、お前が苦笑いしてるとは」

 アレンが微妙にとはいえ取り乱しているのはかなり珍しい。こいつは普通に居たり、気が付いたらいなかったりとある意味で忙しくも余裕の態度を崩さない奴だからな。

「……まあ、それ(・・)を見れば、ね」

「それ……?」

 それって何だ?

 そう思い、寝転がった状態で見下ろすと、

「……」


 あの白い少女が、俺のベッドの中で俺を見上げていた。


「……」

「……」

 目が合うが、お互い動かない。

 勘違いしないでほしい。俺は、単に動けないのだ。衝撃のあまり。

「オギ、君にそういう趣味があることに関して、僕に言えることはそうないんだけれど、とりあえず、そういうのは僕のいないところでやってくれないかい?」

 アレンが苦笑いを浮かべたまま言った。

「待てアレン、誤解だ。お前は今壮大な誤解をしてい――」

「オギ!!」

 アレンに言い訳をしようとしていると、オレガノが部屋に駆けこんできた。


「オギ、大変。あの少女が結界を壊……」

 オレガノの視線が硬直する。

「し……て……抜けだしたんだけれど」

 抑揚が無くなった。声に抑揚が無くなった。

 小さい声で無感情とか、恐怖過ぎる。

「オレガノ、誤解だ。お前は今壮大な誤解をしている」

 まずは弁明。さもなくば死。

「いいか、俺は何もしていない、こいつが勝手にいつの間にか俺のベッドに――」

「オギー? 起きた?」

 その声を聞いた時、俺の頭の中で終了のお知らせが鳴り響いた。


「昨日は、その……きつくあたっちゃって、悪かったわ。だから、今日皆ともう一度あの子について反し……」

 メリアが笑顔のまま硬直した。

「……合おうかな、と……思っていたんだけれど」

 前言撤回。こっちの方が怖い。

「……オギ。言い残すことはある?」

 見る見るうちに真っ赤なオーラを纏ったメリアが左手に火炎球を浮かべ、にっこりと笑った。


「この、変態ッ!」

 誤解もはなはだしい文句と共に、メリアの火炎球がこちらに飛んできた。

 ……やべ。これいつものやつよりでかいな。さすがに今回は駄目かもしれない。

 そう、諦めかけた時だった。


 急に少女が跳ね起きると、両手を前に出した。

「!?」

 こちらに今にもぶつかりそうだった火炎球がその両手に吸い込まれて行く。


「魔力吸収!?」

 メリアが信じられないといった風に叫んだ。

 少女がそのままゆらりと立ち上がり、ベッドから降りる。

 ……が、その身体はすぐにぐらっと傾いた。

「おい!」

 とっさに俺も跳ね起き、少女を支えた。



「……で? どうしてあなたはオギのところに居たの?」

 メリアは納得いかないと言いたげだ。

「……わからない」

 少女がそう答える。

「分からない……か」

 アレンが腕を組む。

「オレガノ、確かに見たんだね?」

「……うん。確かにこの子が眠ったのを確認して、部屋から出た。結界も張っておいた」

 オレガノが答える。


「つまり、夢遊病……みたいなものってことか?」

 俺が聞くと、

「まあ、そういうことになるわね」

 機嫌を直していないらしいメリアが言った。

「オレガノの結界を無意識の状態でも難なく破壊した、ってことか」

 アレンがそのままうーんとうなる。


「この少女はやっぱり僕らの手には負えないんじゃないかな」

 アレンが続けてそう言った。

「……考えてみたけど、やっぱり私もアレンと同意見よ」

 メリアもそう言う。

「……私にまかされても、結界が通じないのなら、ちゃんと匿える自信が……ないわ」

 オレガノまでそんなことを言い始めた。

「お、おい皆、待ってくれよ!」

 このままでは不味い。分が悪すぎる。

 そう思い、どうにかして反論を講じようとした時だった。


『生徒諸君に通達する!!』

「!?」

 けたたましいサイレンと共に、学園内放送らしき声が響き渡った。

『良い朝だな、諸君。だが、そうもいっていられない自体が起こった。実は、学園の敷地内に正体不明の侵入者が入った!』

「何だと?」

 思わず声を上げた。


「サイレンが、警戒度4。……かなりのやり手が相手みたい」

 オレガノがそう言った。

 学園内放送は、本来生徒全員に通達すべきことがある際に使われるが、学園内に許可の無い侵入者が入った際にも使用される。その時々によって警戒度が決められるのだ。

 警戒度は5まで、つまり4ともなると。

「うわ……。戦争レベルだ。まあ、でも今の僕達には関係ない。話を続けよ――」

『なお救護科以外の五段階評価三以上の生徒は強制的に防衛の為、出撃義務が生じる!』

「はあ!?」

 メリアが嫌そうに天井に向かって疑問の声を上げた。

『……既に相手はいち早く出た戦士科の三年を倒している』

 その放送に、学園じゅうが沈黙した。

「三年を倒した……?」

「やるわね……」


『これは学園内の平和と安全を守るためだ! 志を持て、頭を使え、数で殲滅しろ!!』

 よく聞いたらこの声、ゴルゼキアのものだ。あの大剣教師、よほど頭が沸騰してんだな。そういや、三年の戦士科はゴルゼキアのお抱えだったっけ。

「義務、ね。なら仕方ないわ」

 メリアが部屋から出て行く。


 よく見れば、昨晩そこにあったはずの部屋の扉は、ノブの部分が焼き切れたかのように真っ黒だった。

「僕もか。仕方ない」

 アレンが窓から出て、ベランダから飛び降りた。

「オギ。……私も行くわ」

 続いてオレガノが部屋から出て行った。


 後に残されたのは、俺と白い少女だけ。

「……俺、評価2だったな」

 義務すらないと。

「……」

 少女はベッドに座り、こちらを敵意まんまんの眼で見ている。

 何だこの状況。

 だけど、俺が作りだした状況でもある。

 オレガノに頼り過ぎるのも申し訳ないしな。結局、遅かれ早かれ俺が面倒をみることになるとは思っていた。


「なあ、名前だけでも教えてくれないか?」

 とりあえず、刺すような視線を避けつつ、少女に訊いてみる。

「……無い。名前」

 そう言うと、少女は俯いた。

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