16話 哀銀竜 5
加。
久しぶり。
ふむ、オレガノだけが俺の味方だ。
部屋に帰ってベッドに寝て、天井を見つめる。
……竜、か。
頭の中に流れ込んできたあのイメージの竜を思い出す。
哀しい竜、哀銀竜という言葉が相応しいのかな。
にしても、あんな見るからに人間人間した人間が、竜なのか?
――――考え込んでも仕方が無い。
寝るか。
「それで、君は探していたのが昼休み、図書館で話を聞いた頃には五時間目が始まりかけていて、話が終わった頃には五時間目が終わって、次には六時間目があるということも忘れてその後部屋に帰って爆睡したという訳かい?」
「悪かったな!! でもお前らだって時間とか気にしてなかっただろ!!」
俺は夕方頃、帰ってきたアレンに呆れたように起こされた。
「僕とメリアは既に先生に言ってたし、オレガノは呪術科だから演習を他の場所で行っていたって言ったから問題なかったんだよ。まさか戦士科から君が無断でいなくなったなんて聞くと思ってなかったんだよ」
「お前らは頭良いからな!! 俺が授業を少し休ませてくれなんて口が裂けても言える立場じゃないんだよ!!」
特にゴルゼキア先生には言えるわけない。
あれ?
確か今日の5,6時間目って……。
「そう思うんなら首を突っ込まなければいいのに。ふぅ……。僕が君を起こしたのは他でもない。速くこの部屋から逃げたほうがいいよ?」
その言葉で、瞬間的に理解する。
冷や汗が止まらなくなる。
「ゴルゼキア先生より先回りしてこの部屋まで来たけど、もうすぐここにいるってバレる――――――」
「オギィィィ!!」
アレンの後ろで長方形型の大きな板が吹き飛んだ。
俺の見覚えではアレは人の手の届きやすいところに取っ手がついていて、蝶番で壁に止めることによって小さな力で開閉を可能にする『ドア』というものではなかっただろうか。
そしてそんな開け方をするものじゃなかったはずだ!!
「何俺の授業連絡無しにサボった上に自分の部屋で寝てやがんだぁ!!」
ゴルゼキア先生は俺達の寮の部屋のドアをタックルでこじ開けて中に入ってきた。
「一応僕の部屋でもあるんだけどな……」
アレンはやれやれ、と呟く。
「先生!? そ、そうです、風邪、風邪引いたんですよ!! ゲホンゲホン!!」
思いっきり目に付くように咳払いしてみる。
「お前みたいな馬鹿が風邪引くわけ無いだろぉが!!」
「先生なのにその発言!?」
やばい、怒りで言葉が全部怖い。
今日の5,6時間目はゴルゼキア先生の実戦演習。
まずいまずいまずいまずい!!
窓のほうを見ると、先ほど飛ばしたドアで窓がふさがっている。
入り口にはゴルゼキア先生。
「謀ったな孔明!!」
「俺の名はゴルゼキアだっつぅの!!」
こうなったら!!
「特攻!!」
ゴルゼキア先生に殴りかかる。
顎を狙って一瞬で意識を飛ばす!!
バン、と良い音が鳴ってゴルゼキアの顎に俺の拳が直撃した!!
「やった!!」
今の勢いならぶっ倒れるはず!!
だが、ゴルゼキアはそういう次元の人間ではなかった。
顎は一ミリも動くことなく、笑顔でその拳を受け止めていた。
「……教師に意識ふっとばす勢いで殴りかかるとは、良い度胸してんじゃねえかぁぁ!!」
そう叫んで、ゴルゼキア先生は顎を殴った状態の俺の腕を掴むと、ぎりぎりと締め上げた。
「っ痛っぁ!!」
「久しぶりに、じっくりとお前に叩き込んでやるか。礼儀っつうもんをな」