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Not Only But Also  作者: 加減乗除
第3章
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12話 哀銀竜 1

「ッ……!」


 眩しい光にとっさに目を押さえる。


 次に目を開けるとそこには……。

「な、何……!?」

 戦場が広がっていた。


 自分の見下ろす先には、焼け野原。


 所々で銀色の焔が大地を蝕んでいた。


「どうして俺は、こんなところに……」

 そう思ったのもつかの間、急に視界が遠くなった。


 否、地面が急速に遠ざかって行った。


「な……」

 もう声も出ない。

 少ししてこの現象の正体に気付いた。


 俺は今、飛んで(・・・)いる(・・)


 どういうことだ!?


 すぐに頭を回転させる。

 俺は確か、少女に何となく呼びかけてみて、それで……。


 これは……俺の意志に関係なく動いているところを見ると、俺自身のことではないらしいな。

 じゃあ“この景色”は誰の視点だ?


 そう考えたとたん、頭に急激な感情の氾流が起こった。

「今度は何だッ……」

 俺の意志とは関係なく、その感情は俺の中に入り込んでくる。


 ―――――――――――ドウ、シテ?


 この感情は……驚き? いや……悲しみか?


 そう結論づけたとたん、今度は頭の中に声が響いた。


 ―――――――――――ミンナ、シンジャッタ。


 皆死んじゃった、だと?

 俺はそう思い、わずかに動く眼球でどうにか遠ざかっている地面を確認する。


 焼け果てている地面に気を囚われていて気付かなかった。

 その地面には、銀色の焔の他に、いくつか転がっているモノがあった。


 ほぼ炭化していてぱっと見ではわからないが、何かの動物の死体。


 それが、焼けただれている地面のそこらじゅうに落ちていた。


 一体何なんだ!? これは。


 頭が混乱する。


 そう思った次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。



――――――――――――――――――――――――――。


 歪んでいた視界がすうっと戻っていく。


 すると、今度は昂ぶるような感情が氾乱しはじめた。


 これは……喜び?


 ―――――――――タノ、シイ!


 続いて声が響く。


 つられて目を向けると、そこには一人の男が剣を携えて立っていた。


 誰だ? こいつは。


 そう思っていると、目の前の男が急に口を開いた。


「っよお、銀竜。お前、自分じゃそのつもりはなかったって言いてえんだろうがよ。皆さ、お前の強さに迷惑しているんだ。だから、ちょっくら、死んではくれないか?」


 その楽しげな口調とは裏腹に、その言葉は俺の思考を停止させるのに十分な効果を発揮した。


 ……銀竜!? 殺す? 一体何を言ってるんだこいつは。


 いや、待て。たしかこの映像と似たようなことを聞いたぞ、最近。

 確か、図書館で、レコルトさんに……。


 “その結論”に達した瞬間、背筋に怖気が走った。


 ……ここは、この景色は、『アルモンドの勇者』の銀竜の見ていた世界だというのか!?


 しかし、あの話はただのおとぎ話のはず……。


「お前の横暴に、皆が腹を立ててしまったようでな。各地からお前の討伐依頼が殺到しているのさ」


 ――――タノシイ、ツヨイ、ウレシイ!


 では、この叫びは銀竜のものか。

 しかし、人間と竜だからか、意志疎通が出来ていない。


 そうこう考えているうちに、銀竜と男の戦闘が始まった。


 ……俺が思ったのは、ただ、次元が違いすぎるということだけだった。


 竜の魔力は人間の比ではない。ひとたび戦闘が始まれば、湯水のように強力な魔法をほぼ無限に繰り出してくる。


 ただ、俺が感嘆したのは男の方だ。


 おそらくこの男こそが、『アルモンドの勇者』なのだろう。


 四方から迫りくる銀の焔を跳ね返し、手に持った一本の長剣だけで竜と互角の戦いを繰り広げている。


 ……強者と強者の戦いというものは、あまり長続きしないのが定説だ。


 俺が気を取り直したころには、既に男が銀竜の首を長剣で斬り裂いた場面だった。


「グッ……ギャアアアッ!!!!」

 周囲に銀竜から発せられたであろう絶叫が響き渡る。


 ――――ドウシテ? ミンナ、ドウシテ……?


 その意志だけは俺の頭の中に流れ込んでくる。


 竜が向きを変えたらしく、視界が反転する。

 地面すれすれを動いて行く。どうやら這っているらしい。


 そして、銀竜が最後に抱えた物は……白い、楕円形の……。

 卵、だった。


「ここでこいつを倒したら、膨大な魔力の氾流は避けられないな。……よし」

 男――勇者が、剣をこちら――死にかけの銀竜――に向けたらしい。

 そして、術式を唱える。


「神話級:拘束魔法、魔晶封印!」

 その声と共に、周りが暗くなっていく。


 どうやら、何かに封印されるシーンらしい。

 ……これが、アルモンドの勇者の結末か。


―――――――――――――――――――――――。

 そして、そこで俺の意識は急激に戻される。


「―――――ギ」


「――――――オギ!」

「うわあッ!?」

 しかしが急にはっきりし、最初に映り込んだのは、メリアの顔だった。


「もう、大声出して。大丈夫?」

「あ?……ああ……」


 そこは、視界が変わる前の呪術科のオレガノ専用室。

「あの、メリアさん。可笑しなこと訊くぞ?」

「……なによ」


「俺、どのくらいぼーっとしてた?」

「んーー、二十秒くらい」


 ……そんな馬鹿な。


「そうだよ、オギ。急に黙ったりして。どうかしたのかい?」

 アレンが横から言う。


 前を見ると、白い少女が俺の目の前にきていた。


 そして、こちらをにらみながら、こう言ったのだ。


「……“友達”なんて、大っ嫌い」

 ……と。

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