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電車の3分

作者:
掲載日:2026/05/08

今週も仕事頑張った。

私はクタクタの体で帰路に着く。

いつもと同じ帰り道だが、今日の電車内はどんな人がいるだろうか。


退勤が遅かったせいか、今日はゆったりと座れる。いつもは退勤途中であろう中年男性に挟まれ、私の両手は居心地が悪そうなのである。


スマートフォンをいじることなくぼーっと車窓を眺める。


「まもなく–駅、−駅。お降りのお客様を先にお通しください。」


一組のカップルが乗ってきた。お酒をのんだのであろう、大きな声で話をしている。   


少しだけ眉をひそめる人もいるが、誰も何も言わない。車内には、見て見ぬふりをするような空気が流れていた。


私はイヤホンの音を少しあげ、視線を窓に戻しかけてふと気がついた。


向かいの席に座る年配の女性が、居心地悪そうに体をすくめているのが目に入ったのだ。


 ――関わらない方がいい。


 頭のどこかで、いつもの声がする。

 余計なことをすれば、面倒になるだけだ。


それでも、さっきから耳に残る笑い声と、その女性の小さな仕草が、どうしても気になった。


電車が次の駅に滑り込む。

ドアが開き、人が少し入れ替わる。


ほんの数分。

それだけの時間なのに、妙に長く感じた。


私はゆっくりと立ち上がる。


「すみません、もう少し静かにしてもらえますか」


 自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。


 カップルは一瞬きょとんとして、それから「あ、すみません」と小さく笑った。

 さっきまでの騒がしさが、嘘みたいに収まる。


 それだけだった。


 たった、それだけのこと。


私は何事もなかったように、イヤホンを耳に付けながら元の席に戻る。

向かいの女性が、ほんの少しだけ頭を下げた気がした。


電車はまた、ゆっくりと動き出す。


胸の奥で、なにかがかすかにほどけた。

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