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【号外】人間社会にまぎれてると噂のAI人間、ガチで存在確定【政府公式発表】

作者: 久藤 瑛太
掲載日:2026/03/08

「AI人間」


今から少しだけ未来の日本では、そんな単語が都市伝説として囁かれていた。


人口減少により起こる様々な問題の対策として、政府が極秘裏に「国民」を製造している――。


姿形、声、肌の温もりに至るまで、本物の人間と何ら変わりはしない。


そんな「彼ら」が、隣人として、同僚として、あるいは友人として、社会に紛れ込んでいるという噂。


ネットのデマ。退屈しのぎに誰かがついた嘘。

大半の人間は、そう笑い飛ばして生活していた。


だが、その「噂」は、ある日を境に唐突な現実味を帯び始める。


きっかけは、すべての国民のスマホに届いた、一通の無機質な通知だった。


ーー23時30分。

俺は同級生の悪友のトモキと自室にいた。



トモキ「あと30分...だな」


俺「ん、怖いの? もしかして」


トモキ「まさか。……ただ、本当にこんな話があるんだなと思ってな」


スマホをひらくトモキ。3日前に届いた事務的な通知画面が表示される。


俺「あー、その政府からの通知ってやつ。長すぎてダルいから読むのやめたわ。要するに何て書いてるの?」


トモキ「今夜の0時。社会に紛れたAI人間が、一斉に止まるんだと。


人口減りすぎて社会が回んないからって、国がこっそり数合わせで混ぜてたらしいけど……


倫理的にどうなのかとかって騒ぐ声がデカくなりすぎて、その計画が中止だとかなんとか。」


俺「あー、なんかその辺までは読んだわ。他には?」


トモキ「もし身近で『止まったやつ』がいたら、今回設置されたAI人間回収の業者に連絡しろってさ。

まあ、俺らには関係ない話だけど。」


俺「ははっ。回収業者ってゴミじゃねーんだから。

そういえばポストにその業者のチラシが入ってたけど、さすがに笑えたわ。

まあ、もしお前が『止まった』ら速攻で電話してやるよ」


くずかごに向けて投げた丸めたティッシュが、綺麗な放物線を描いてスポリとおさまった。


トモキ「は?俺がAI人間ってことかよ?ウケるな、それ。まあ、そうなったら回収業者呼ばないで、お前んちに置いといてくれよ。」


俺「ふざけんな、動かないお前と同居とかマジで勘弁してくれ」



ーー3日前の通知。

最初は誰もがただの都市伝説だと思ってた。


「AI人間が本当に存在していた」なんて。


けど、その意識はすぐに覆される。


テレビをつければ、連日のワイドショー。


専門家が深刻な顔で語る「AIの見分け方」。


スマホを開けば、SNSはこの話題の切り抜き動画で埋め尽くされている。


極め付けは、総理大臣の公式な発表。


ここまで来ると当然、疑う人間は誰一人としていなくなった。


とはいえ、どれぐらいの数のAI人間が紛れ込んでいるのかなんて、誰にもわからなかった。


数百人なのか、それとも数万人なのか。また、何年前からその計画が始まったのか。


政府の発表もどこか曖昧で、結局のところ、人々にとっては「自分には関係のない話」でしかなかった。


ーー23時32分



俺「まあ、でもよ。関係ないとか言いながら、こうやって集まってんのが最高に俺ららしいよな」


トモキ「たしかに。年越しのカウントダウン待ちみたいなさ。ちょっとしたイベント気分だよ。こんな機会でもなきゃ、流石にこの時間に家抜け出すのはキツいわ。うち、親がガチでうるさいから」


俺「そうだよな。トモキの親父さん、厳しそうだもんな。うちはその点、親も夜型だし。よっぽどうるさくしなきゃセーフだよ。」


トモキ「……まあ、外出が誰かの家にこもる条件付きなのがダルいけどな。


政府の発表じゃ、AIが止まる瞬間は事故とか混乱が起きるかもだから『ステイホーム』推奨なんだと。


AI人間はプロンプトで、その時間は家でおとなしくするように設定されてはいるけど、念の為とかなんとか」


俺「ははっ、詳しいな。ワイドショー見過ぎなんじゃねえか?」


そう言いながら景気良くポテチの袋をあけ、トモキの前のテーブルに広げてみせる。


俺「あーあ。なんか、修学旅行みてーだな。……そうそう、修学旅行といえばさ」


そこからは、他愛もないバカ話に花が咲いた。あいつがあの時盛大に転んだだの、あの先生が実はかつらだの。


ーー23時38分



俺「へへっ、それでよ、2組の村田いるだろ? あいつ、今回のことマジで深刻に捉えててさ。『俺、AI人間で『止まる』かもしれないから勉強やめるわ』とか言い出してんの。ウケるだろ」


トモキ「いやいや、アホの村田に限ってAIはないだろ。あいつが人間に成り代わって仕事しだしたら、日本一瞬で終わるわ!」


ギャハハと笑い声が弾ける。


その時、ドアの向こうから「コラ、うるさいわよ」と母ちゃんの声がした。


……いつも通りの、少し不機嫌そうな、聞き慣れた声。


俺「……やべ、母ちゃんに怒られた。騒ぎすぎたわ」


トモキは「すまねぇ」というジェスチャーの後、軽く咳払いをした。


声を潜めて、ベッドに深く座り直す。

トモキは天井を見上げながら、ポツリと漏らした。


トモキ「……でもさ。テレビで見たけど、AI人間って自分がAIだって自覚、ないらしいぜ」


俺「……は?」


トモキ「自分が人間だと思い込んで、飯食って、恋愛して、将来の夢とか語ってるんだって。プログラムされてる自覚もなしに。……滑稽だよな」


俺「へぇ。そうなんだ。

じゃあ、ますますお前が『止まっちまう』可能性あるな?」


もちろん冗談のつもりが、トモキからの返答は予想外にシリアスなものだった。


トモキ「……まあ、その時はその時だろ。どの道、俺らの意志でどうこうできる話じゃないしな。」


そう言ってトモキは、まるで他人事のように窓の外の闇を見つめた。


適当な返答が見つからなかった俺は、ふと時計を見上げた。


秒針の音が妙に大きく聞こえた気がする。


ーー23時43分



俺「......まあ、このままじっと待つのもなんだし、いっちょやりますか!」


俺はニヤリと笑ってみせる。


トモキ「ふっ。いいでしょう、かかってきなさい!」


呼応するトモキ。


俺はNintendo Switchのコントローラーをトモキに投げ渡し「スマブラ」のソフトを差し込んだ。


俺たちの実力は大体、互角。

いつやっても好勝負で結果が読めなくて面白い。


――ただ、時折。


トモキは人間離れした、神がかり的なプレイを見せることがある。


この時もそうだった。


トモキ「いよっしゃあああー!」

俺「うお! マジかよ! 今の避けんのかよ!?」


画面の中、トモキのキャラが俺を圧倒する。あまりに完璧すぎる、無駄のない動き。


「つえーよ! お前ガチでAIかよ――」


笑って言おうとした刹那


なんとなくギクリと感じ、俺はとっさにその言葉を飲み込んだ。


ーー時計は23時52分を指していた。



依然としてゲームはつづき、画面の中ではキャラが激しい攻防を続けている。


が、俺はもう上の空だった。


そういえば、考えれば考えるほど、こいつにはおかしなところがある。


勉強しているところなんて見たことがないのに、テストはいつも学年上位。


「昨日寝ちゃったわ」なんていう、よくあるブラフじゃない。こいつはマジで教科書すら開かずに、当然のように満点を取ったりする。


あれは「地頭がいい」で片付けられることなのか?


芋づる式に思い返してみると、こいつはいろんな面で完璧だった。


俺みたいな悪友とも、馬鹿をやって笑い合える。


そのくせ、鼻持ちならない秀才たちとも難なく渡り歩ける。


女子とのやり取りだって、驚くほど自然で、気づけばクラスの人気者だ。


全てにおいて「絶妙なサジ加減の最適解」を弾き出せる完璧超人。


こいつが相手に合わせて、最も好かれるプロンプトを瞬時に選択していただけだとしたら?



そんな思考が指先に伝わったのか、俺の操作するキャラの動きが目に見えて鈍くなる。


しかし、おかしいのは俺だけじゃなかった。


トモキのプレイにも「かげり」が見え始めていた。


コンボは繋がらず、あからさまに隙が増えていく。


こいつも、集中できていないのか?

こいつは今、頭の中でなにを考えているんだ?



俺「……なあ、トモキ。もう、やめようぜ。なんか今日は集中できねーわ」


投げ出すようにコントローラーを置いた。


トモキ「……。……ああ、そうだな」

トモキも静かに手を止めた。


時計の針は、もう23時58分を回ろうとしていた。


俺「...ところで素朴な疑問なんだけどさ。AI人間を回収するのが今回の目的ならよ、プロンプトでスクラップ工場に集まるとかにすれば手っ取り早いだろうに、なんでそうしねえんだろうな?」


トモキ「まあ、そうなんだろうがな。けど、信じられないことに役所って未だに『紙に手書き』なんだぜ? 住所も名前も、何度も同じこと書かされて。そんなアナログな連中が、スマートに一箇所に集めるなんて効率いいこと、できないんだろうな。」


俺「ふーん、そんなもんなのかな?

落第候補の俺なんかでも思いつくようなことができないなんて、役所ってよっぽど無能なんだな。」


ーー23時59分 残り1分を切る



俺「やっべえ、なんか緊張してきたわ」


わざとおどけて、震える声を隠すように言ってみせる。


トモキ「……はは、お前ビビりすぎだよ。何も起こりゃしないって」


トモキは呆れたように肩をすくめた。その仕草も、少し小馬鹿にしたような笑い方も、俺が知っている「いつものトモキ」そのものだ。


トモキ「ほら、あと30秒。……これが終わったら、さっきの村田の話の続き、教えろよ。あいつ、本当に勉強やめたのか気になるし」


俺「おう...そうだな」


俺が空返事をすると、二人は時計の秒針を注意深く覗き込んだ。


その時


土壇場で最悪な予感が脳裏をよぎる。


――AI人間には、自覚がない...?


だとしたら、『止まる』かもしれないのは本当にトモキだけなのか?


いやいや、じゃあ「俺」の方はどうなんだ?



【3秒前】

もしかして、自覚がないってだけでーー




【2秒前】

実は俺がAI人間だというーー




【1秒前】

可能性がないとは言い切れ――?!





カチリ!





三本の時計の針がきれいに重なり合って、一直線に天を指す。


世界が、一瞬だけ止まった気がした。









「…………」









チッ、チッ、チッ、チッ。



時計が針が、次の1秒を刻み続ける。


世界は止まることなく、当たり前のように明日へと踏み出した。



俺「……は、はは。なんだよ、結局なんにも起きねーじゃんか。ビビらせやがって」


自分の声が妙に浮いて聞こえる。心臓のバクバクを誤魔化すように、俺はわざとらしく鼻で笑い、テレビのリモコンを拾い上げた。


「そうそう、さっきの村田の話だけどな。あいつ、マジで――」


言いかけたところで言葉が喉の奥で凍りついた。


隣に座るトモキの横顔。


そこには、さっきまで俺を小馬鹿にしていた「親友の表情」が


まるでフリーズしたSNS動画のように張り付いていた。


「……おい、トモキ?」


返事はない。


いつもの悪ノリじゃないことは、即座に理解できた。


トモキの瞳が、潤いを失ったガラス玉のような無機質さで、何もない空間を見つめていたから。


「……え? なに? おいって!」


俺はたまらず、その肩を強く揺さぶった。


指先に伝わってきたのは、驚くほど「人間らしい」感触だ。


適度な弾力、その奥の硬い骨格。衣服越しに伝わる微かな熱。


――「人間に触れて、人間みたいだと思う」


その思考自体が、すでにこの出来事の狂気を物語っていた。


「えっと、ウソだろ。ガチで……?」


確かめるように、震える指先でトモキの頬に触れる。


その瞬間。


カクン。


ただ重力に従うかのように、トモキのアゴが外れたように落ちた。


口を半開きにした、あまりにも間抜けな表情。


「…………っ、ぷ」


シュールな笑いが込み上げてきた。


不謹慎だ。わかっている。


これまで観てきたドラマや映画なら腰を抜かして泣き叫ぶのが正解なのだろう。


もしも、目の前で動きを止めたのが本物の親友トモキなら、俺もその「正解の反応」を示したのかもしれない。


けれど、今ここにあるのは「動きを止めた製品」だ。


そう認識した瞬間、俺の感情の中には「滑稽さ」だけが強めに残った。



親友だと思っていたこいつーー。


これまで一緒にバカをやって、テストの結果に一喜一憂して、夜更かししてゲームをして


そりゃあ、楽しいはずだ。


それらすべてが、俺のレベルに合わせた「プロンプト」の結果だったのだから。



俺は親友を失った。


厳密に言えば「親友だったもの」なんだが。


あ、いや待て。そもそも作り物だったんだから、最初から親友はいなかったということになるんじゃないのか?


...とはいえ、こいつを親友だと思って腹の底から笑い合った時間があったのは紛れもない事実だ。


悲しむべきなのか?

そりゃあ、悲しいっちゃ悲しいが。


大事な人を失った喪失感というと決定的に違う。


どちらかというと、使い馴染んだスマホが目の前で、泡を立てて水没していくような絶望感。



......クソ!

何をどう感じりゃいいってんだよ、この状況!


感情の行き先が見つからず、頭の中を延々と掻き回されるような感覚に苛立ちが募る。




俺「......あ。」


ここで俺は肝心なことを思い出す。


「てことは、俺


明日、回収業者に連絡して


”こいつ”を持っていってもらわないといけないのかよ。」


......


もう、無理。

ガチで意味わかんねぇ。


とりあえず一旦、母ちゃんに伝えて落ち着こう。


ため息をつき、脳死状態で部屋を出る。


思考を止めたまま、いつもの足取りで廊下を進む。


なるべく普段の口調を意識しながら


俺「……母ちゃん、トモキがさぁ」


リビングのドアを開けた。



しかし、母ちゃんはそこにはいなかった。


俺の視界に飛び込んできたのは


『ガラス玉の目』をした両親と


冷蔵庫に貼られた

【AI人間回収のチラシ】だった。


おわり


【あとがき】

※読後感を楽しまれたい方は

読まないことを推奨します。








私の作品なんぞを

最後まで読み終えた

愛すべき奇特な皆様へ。


こんな救いのない話に

最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございます。


お礼に一つだけお願いがあります。


もし少しでも『面白い』と感じたなら

遠慮なく私を褒めちぎってください。


皆様の絶賛コメントという名の

『栄養』がないと、私の執筆の手が

トモキのようにフリーズしてしまいます。

どうぞ、私の承認欲求を

甘やかしてやってください。


あ、もちろんツッコミや

酷評なども大歓迎です。

それらに関しては

「ガラス玉のような目」で

淡々と読ませていただきますので

そちらも併せて

お気軽に書き残していってください。


※ あまりに辛辣すぎますと

私のアゴが外れて

元に戻らなくなる恐れがあるので

どうかご注意ください。


皆様の反応、心よりお待ちしております。


久藤瑛太

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