第九幕:息子を奪われた牧師
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第八幕では、コナン・ドイルが度重なる現実の侮辱により、とうとう倒れてしまった。
僕はコナン・ドイルを支えた。
そこは教会のそばにある牧師館だった。牧師が正面玄関で、ひざまづいてた。
コナン・ドイルの様子を見て、彼も顔色を変えた。
「おお、神よ!これは悪魔の戯れなのでしょうか?神の下僕である私に、何を求めていなさるので?」
可哀想だけど、コナン・ドイルのワガママボディを支えるのにも限界があった。
「神に祈る前に、人としての義務をやりたまえ!」と牧師に向かって叫んだ。
牧師も彼を支えた。
嫌そうにしていた。
「神の目をごまかすな。先生を寝かせろ。ーー医者はどうしよう。アンタが恥知らずというから」
「まさかーーそれだけで?」と牧師は目を見開いた。何もかもが悪い方向に進んでいるようだった。
「とりあえず横にさせよう。アンタの息子さんの部屋は?」と僕は牧師に聞いた。
「に、二階にーー」
「最悪だーーアンタは足を。僕が頭を支える......」
苦労をしながら僕らはコナン・ドイルを牧師の逮捕された息子の部屋に連れて行った。
そこは鉄製ベッドと小さな机が並ぶ簡素な空間だ。コナン・ドイルを鉄製のベッドの上に仰向けにした。
彼は静かに寝息を立てていた。
喉は詰まらせてない。
呼吸も安定してた。
「医者を呼ぶべきだろう。こんな時にワトソンがいたら良かったのにーー」
思わず僕は呟いた。
緋色の研究の中のワトソンーー。
僕には現れるのだろうかーー。
牧師は不満そうに見つめてくる。
「あなた方はーー何しに来たんですかーー」と今にも言われそうだった。
「ここは神の家だ。......もてなし方があるだろ。まずは紅茶を用意してくれ。
英国紳士としての嗜みだーーもしくは酒でもいい。身体が冷えるんだ。その時に説明する。身体を温めたいーー頼むよ、牧師さま」
しばらくして、僕は酒を飲んで身体を温めた。久しぶりに飲んだ......悪魔の水は、なんと心地いいものかーー僕を再びお花畑へと引きずりこもうとするんだ。
気を紛らわすために、牧師に僕らの訪問理由を伝えた。
グレイト・ワーリーで、再び起こった今回の事件の調査をしたい事をーー。
「私たちの息子は戻ってくるんですかーー?」と彼は僕に聞いた。
「あくまでも、調査の為ですーー息子さんが、この家に戻れるかもーーわからないです」
「あんまりだーー何しに来たんだーーあなた方は、ごたごたを増やしてーーただでさえ、自分たちは耐えて、耐えているのにーー」
僕は何も言えなかった。
こんな時に観察や推理はーー役に立たない。
キレイゴトでごまかしたら、その方が残酷なんだ。
「できる限りのことはやります。
先生を寝かせておいてくださいーー」
すると玄関から、ノック音がした。
周りを警戒するように。
霧雨は少し強まっていた。
僕らは扉を開けた。
すると、素早く濃紺の雨合羽を着た男が入ってきた。
その男はキャンベル刑事だった。
「おい、ホームズ。吾輩と一緒に来い。ーーボスを説得したぞ。すぐに会いたいそうだーー酒を飲んだのか、におうな......。」
僕は牧師を見た。彼は仇を見るような目でキャンベル刑事を睨んでいた。
何か言おうとしたけど、キャンベル刑事は夢中になって僕の腕をつかみ、外へと連れ出した。
ーーまた身体を冷やす羽目になった。
(こうして、第九幕は雨合羽を着た男により幕を閉じる。)




