第八幕:恥知らずの崩壊
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第七幕では、ホームズとしての僕はキャンベル刑事から信頼されるようになったが、コナン・ドイルは事件の担当責任者を怒らせてしまった。
調査は難航。僕らは、この冷たすぎる村の中で孤独だった。
さて霧雨が、村の石畳を濡らす音が、まるで僕らを嘲笑するように響いていた。
傘をささずに村の中を歩いていた。
ーー持ってこなかった。
前をずんずん、僕の前をコナン・ドイルは歩いてた。危なっかしい。滑って頭を打ちつけでもされたらーー僕のせいにされるーー。
「せ、先生、地面が滑りやすくなってます。き、気をつけてくださいーー」
コナン・ドイルはムスッとして応えた。
「ーーホームズ。泊まるところを手配してくれたのは助かる。ーーだがね、勝手な判断を、君はしたんだ。
......これは重大な命令違反だ。ほめられたことじゃない。
むしろ、罰を与えられるべき裏切りだ。」とコナン・ドイルは僕を見ずに前を向いて歩いた。
なぜかって?
かなり寒かったから。
僕らはブラウンの外衣をまとっていたが、雨は冷たかった。
「私と君の知性の差だ。これがわからんから、君はいつでもダメーー」とコナン・ドイル鼻を鳴らした。
「ーー先生、そこの家です」と僕はコナン・ドイルの肩をつかんだ。
その瞬間、彼はふりかえった。まるで尻でも鷲づかみされたかのように僕の手を、顔を交互に睨んだ。
「……あの、そこの家は、温かく迎えてくれますよ。紅茶をいただかないと……」と、僕は言葉を絞り出すように言ったが、もはや彼は聞いていない。村の通りは、炭鉱の煙突から吐き出される煤煙でくすんでいた。
そこの家とは、教会のそばにある牧師館だった。赤みがかったレンガ造りの二階建ての建物だ。
空は灰色で薄暗く気味が悪かった。
コナン・ドイルは、僕をしばらく変質者を見るかのように睨みつけた。
そして、警戒する乙女でもあるかのように、建物に近づいた。
正面玄関は重厚な木材のドアで、コナン・ドイルを拒むかのようにあった。
「おい!誰かいないか?」と彼は扉を強めに叩いた。がっしりとした身体の太い腕がドアを乱暴に揺らした。
まわりを囲む庭は、手入れが行き届いた。芝生と低い生け垣で区切られてた。
ドアを開けたのは牧師だった。インドの血を引く穏やかな顔に、疲労の影が濃ゆかった。目は乱暴な来訪者への不審な色があった。
「……あの、ーーどなたですかな?」
コナン・ドイルは目を見開き、ホームズを見た。僕は牧師に、こう言った。
「キャンベル刑事から、この家に泊めてもらえると、勧められました。
ちょうど部屋があいてるとの事でーー」
その時、牧師の顔が苦痛に歪んだ。
「え、ええ!なんて、残酷な!神よ!ああ、私たちをお救いください!」
彼は突然しゃがみ込んだ。
「で、部屋は空いてるのか?」とコナン・ドイルがイライラしたように聞いた。彼は早く座るか、横になりたかった。この村が心底嫌いだった。
牧師は顔を押さえて応えた。
「息子のジョージの部屋が空いてます。彼は逮捕されたんです!
キャンベル刑事からーー」
悲痛な叫びが響き渡った。
するとコナン・ドイルは悲しくなって、牧師の肩に手を置く。
「私はコナン・ドイルだ。名探偵の生みの親だ。シャーロック・ホームズを読んだ事はあるかね?」
しばらく牧師は呼吸を整えてた。
それから静かにつぶやいた。
「あんな恥知らずの本をーーアンタが?」
牧師はコナン・ドイルを見つめた。
僕も彼を眺めた。
ーーコナン・ドイルの頬がひきつった。彼の顔は赤くなって、引き潮が突然きたかのように、青白くなり、唇からカニのように泡を出した。
限界に来たんだ。彼は両手で自分の胸を抑えて、一歩、二歩と足を進めたかと思うと、倒れていく。
僕は彼の身体を支えた。
まるで、乙女にするように......。
(こうして、第八幕は乙女によって幕を閉じる。)




