第六幕:虚構ホームズの作戦
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第五幕では、コナン・ドイルがシャーロキアンたちを訴訟させないために、
彼の興味を逸らす事を始めた。
「せ、先生。新聞を見たんですけど、グレイト・ワーリーってとこで、ふ、不可解な事件が、お、起こったようですーー」と僕は言った。
この準備をするために、
僕はちょっとした手間をかけた。
まずコナン・ドイルの興味を逸らしつつ、次に僕の知性を磨けるような事件を探さなきゃダメだ。
この時、帽子ホームズが手助けをしてくれた。地方の事件も彼は調べていたからだ。
「これくらいは当然だよ。1000の事件を知っていたら、1001の事件なんてわかるさ」と言われた。
さてーー彼から事件担当者の名前を教えてもらった。ジョージ・オーガスタス・アンソンという。
僕はハインドヘッド邸宅の近くにある郵便局から、グレイト・ワーリーの新聞を取り寄せた。
すぐに信じたら、痛い目に遭いそうだからだ。
新聞により事件の内容が分かった。
ここまでやったんだーー!
新聞には、グレイト・ワーリーの事件は家畜への攻撃ーー残酷な切り裂きだったとある。
1903年から1905年にかけて犯行は繰り返され、犯人の逮捕後に沈静化した。
だが最近になって、再び事件が起きたという。
模倣犯なのか。それとも、捕らえられた男は無実だったのか。
新聞はその答えを、曖昧に煙に巻いていた。
ーー新聞の記事は、すべてを信じない。
真実は、現場にしかないからだ。
あとはーー、さりげなくコナン・ドイルに伝えた。どのタイミングかーー、そこが問題だった。
ーーわざと村の名前を告げて、
コナン・ドイルの暴走する知性に働きかけたーー。
彼は事件の匂いを嗅ぎとると、急いでイギリスのサリー州ハインドヘッドの屋敷をでることにした。
決断に一秒もかからなかった。
出発前に、コナン・ドイルは僕を使って、事件担当者に電報を打たせた。
しかしーー彼は事件については殆ど知らない。担当者についても気にしない。「電報を打て」は思いつきだ。
「私の付き人なんだから、それくらいはできる」ぐらいの感覚なんだろう。
ーー電報の中身もひどかった。
『私はコナン・ドイルだ。怪事件の情報を求める。警察は協力しろ_コナンドイルより』
こんな感じの内容だった。
僕はコナン・ドイルがよこしたメモの内容を見て、思わず彼の前で苦笑した。
作家なんかが、現実の警察を動かせるはずがないからだ。
僕は、この電報の後でーー二つ目の電報を警察署に送った。
『私は彼とは違う。捜査、協力させてください_ホームズより』
ーーなぜ、こんな事をしたのかって?
僕はコナン・ドイルと戦って証明したかったんだ。
自分の探偵としての実力ーー
そして、天使への物語のためにーー。
電報後、ハインドヘッド駅からハズルミア経由でロンドンへいった。
懐かしさで涙が潤んだ。
僕は必ず、ここに戻らなきゃならない。ーーそうする理由があるんだ。
ーーここでも感傷に浸ってられない。
そこからオクスフォード・ウスター・ウルヴァーハンプトン鉄道でグレイト・ワーリーへ向かわないといけない。約半日はかかる。順調に行けたら、10時には着けるはずだ。
さて、ーーコナン・ドイルには自信があった。根拠のない自信だ。
事件を解決する自信と、
彼の名声が
警察を跪かせることをーー。
「頭が飾りでなければ、彼らは話を聞いてくれる」と汽車の中で彼は何度も僕に同じ話をした。
彼は、不安だったかもしれない。
ーー正直にいうと僕も不安だった。
なにせ、初めての事件だ。
殺された相手が人じゃなくて、家畜だとしてもーー。
村に到着すると、僕らはグレイト・ワーリーのスタッフォードシャー警察署にむかった。
事件がーーそこにあった。
まるで蜘蛛の糸が垂らされたようにーーね。
(こうして、第六幕は初めての事件で幕を閉じる。)




