第三幕:シャーロキアンの崩壊の危機
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第二幕では、僕はコナン・ドイルの付き人として屋敷に連れ込まれた。そして彼の妻ルイーザに、会った。
彼女は結核で、
ここは『彼女のための最後の家』だったーー。
「冗談じゃないーーあの女はーー結核だ......」と僕はことの顛末を話した。
様子を見にきたシャーロキアンの群れのリーダーの帽子ホームズにね。
そこはサリー州ハインドヘッドの屋敷の裏口だった。屋敷の中は息を潜めたように静かだった。
誰も感染者のいる屋敷を襲う者なんていない。だから見回りもない。
帽子ホームズはステッキによりかかりながら、立ったまま話を聞いていた。彼と僕の違いはディアストーカーハットの有無でしかないだろう。
帽子ホームズはーーしばらく考えた。
一秒以内で考えられたのだろう。
声は弾んでいた。
「おい、君。これはチャンスだぜ。
その女の心をつかんで、コナンにホームズ本を書かせるんだ。」
「どうやって?」
「そりゃあ、女なんざ適当な事いってほめてやりゃあ、勝手に気持ちよくなるさーー気持ちよくさせるんだ。
それがーー骸骨のように痩せた女であれね。」
「ーーそれは、卑劣なヤツがーーやることでは?」と言った。
するとーー彼から不満げな声が返ってきた。
「もう何作も......あの野郎はホームズ本を書いていない。
このままだと、
彼の中にいるボクらのホームズが、
歴史バカになるのも時間の問題だぞーー」
彼は一呼吸おいて言葉を続けた。
「そうなったら、ボクらは、おしまいだーー」
「まさか」
「そのーーまさか、さ。
ボクらは知性を磨けず、他のシャーロキアンたちもアイツを見限る。ホームズ本は川に投げ捨てられるんだ。
そうなってみろ、まるでボクらはバカだ。マヌケ集団になりさがるんだ。」
彼の話を聞くと、僕は不安になった。
事態は深刻なのかもしれない。
次の日から、
僕は本格的にルイーザの世話係になった。誰も彼女に近寄りたくないからだ。僕にとっても都合が良かった。
ーーこの家の連中は、
コナン・ドイル以外は、
僕にも近寄らなくなった。
この屋敷でもーー孤独だった。
この孤独はルイーザも分かっていたーー。
彼女は決して部屋から出なかった。
僕と話す時ですら、
上から目線ではなく、
一人の人間としてーー
すまなそうに扱ってくれた。
だから、僕は心からーー
彼女を『奥さま』と呼んだ。
(こうして、第三幕は孤独により幕を閉じる。)




