第十七幕:名探偵の廃業
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十六幕では、僕は完全に付き人へとなり、探偵なんて一時の夢となった。
それでも、事件に飛び込んだ。
僕の意見を誰も聞かない。
コナン・ドイルは自分が思いついたように思い込む。誰もが僕を無視した。
推理をしない、されない、マウントを取らない聞き分けのいい男が何をしてもダメだ。
その生活さえも、ある日、終わりを告げた。
その日も、コナン・ドイルは僕を連れて事件現場を捜査していた。
太陽が昇り切った昼の事だった。
観光名所もない別の村で、別の家畜殺しが起こったんだ。
そこで家畜が夜中に腹を割かれた。
現場には足跡がなく、犯行は夜間に行われ、やはり目撃情報もなかった。
コナン・ドイルは事件現場を見回し、いつも通りに僕に事件を観察させた。
「ホームズ、事件だ。準備はできてるか?」と、コナン・ドイルの後ろにいる僕に聞いた。
「は、はい、先生ーー」
村人たちは近くにいて、作家の捜査のやり方を真剣になって見つめた。
僕が地面に四つん這いになって、顔をこすりつけるようにして土を観察した。それから手帳に書き込み、白い紙に泥をつまんで包んだ。
家畜は腹を割かれたまま、放置されていた。ひどい臭いだった。
ハエが集っていた。
周辺には野犬たちが集まっていた。村の若者たちは犬たちを追い払って、野犬がこれ以上近寄らないようにしてた。犬は唸り声をあげてた。
奇妙な光景だった。
事件現場をそのままにするのは、不可能だった。
飢えた獣たちが見逃すはずはないのだからーー。
その中で、僕は黙々と観察を続けた。
犬のようにね。
コナン・ドイルは両腕を組んで冷静に見つめた。
耐えきれなくなって、村人が聞いた。
「ドイルさん。そろそろ、家畜の処分をしたいのですがーー他の家畜たちのストレスになりますしーーその」牧場主からの苦情がでた。
「まだ調査が終わってないーー」とコナン・ドイルは静かに答えた。
「事件解決の証拠を見つけるためには、これは必要な事なのです!」
牧場主は目を見開いた。
「そのーーあなたは調査しないんですか?二人いたら、そのーー効率的ではありませんか?」
「全体を見通す者が必要なんです。
私までが彼のように、這えというのですかな?真実は、それほど単純には解明できません。これは純粋な捜査活動なのです。警察にはムリなことです。
ええ、そうです。彼らの頭は飾りーー」と彼が持論を述べようとした時だった。この物語の破綻は急に起きた。
野犬たちが銃声で追い払われ、何匹かが横たわり痙攣した。撃たれたのだ。
警官隊が群れて、この騒ぎを鎮圧していた。
そのグループを指揮していたのは、あのアンソン大佐であった。
彼は軍人のように厳格に、効率よく問題を解決した。
放置された家畜を処分し、
野犬たちを追い払い、
村のヒマ人たちを容赦なく遠ざけた。
彼はキビキビと歩き、牧場主と作家の前まで来て、頭を下げた。
「ドイルさん。ーーここまでです。あなたには探偵業をやめてもらいます。ーー完全に」
このアンソン大佐による現場の介入は、コナン・ドイルを怒りに震えさせた。
「キサマ!私を逮捕させるつもりか!
この事はロンドン市民の前に、白日のもとに晒すからな!
捜査の邪魔をし、私の、個人の、個人的な活動に口をだしたんだから!」とコナン・ドイルは地団駄を踏んだ。
「我々はドイルさんを逮捕しません。
嘆かわしいことに、世間ではーーあなたは警察よりも事件を解決させられる男なのですからーー」
アンソン大佐は部下に命じ、さっきまで地面に顔を埋めてた僕を拘束させた。
僕は逃げ出したかった。
怖かった。両脇をガッチリ固められたから。
コナン・ドイルは、この光景に口を開けた。
「ーーな、何をしてるんだね、キミ!?」
アンソン大佐は、僕の方に顔を向けていた。
「この男をーー我々は逮捕します。理由は、あなたと共に無断で公的な捜査に介入し、証拠などをーーまあいい、とりあえず捜査を邪魔したんだ。
看過できない。彼は、ホームズは逮捕する。そして、あなたに近づけさせない。今後ともーー」
アーサーは下唇を噛んだ。
「今後ともーーだと?何の権限があって?」
「もちろん、公的な捜査の邪魔をしたからです。世間は納得する。
彼は、あなたではないからだーー」
僕は家畜のように馬車に乗せられていった。何度もコナン・ドイルを振り返るが、引きずられるように現場から離されていった。
僕は吃りながら、泣いていたーー。
演技ならどれほど良かったかーー。
「ホームズ、ホーームズーーー!!」とコナン・ドイルは僕を追いかけようとしたが、足が上手く動かなかったようだ。
彼が米粒のように小さくなっていく。
家畜は市場に運ばれるーー
そんなもんだ。
(こうして、物語は悲しみの中で幕を閉じる。)




