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シャーロキアンのホームズⅡ〜名探偵になりたい男の物語〜  作者: ヨハン•G•ファウスト


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第十三幕:蜘蛛の影

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第十二幕では、冴えない記者ヘイミッシュ・ワルターとしてふるまい、豚肉屋のホリスの自尊心を刺激して酒を飲ませた。


ここはワーリー村にある酒場だ。

カウンターで、僕とホリスは並んで腰かけていた。彼にはだいぶ飲ませた。

「いい呑みっぷりだね。ホリスさん。」

彼の口が軽くなってから、軽く聞いてみた。

「ジョージ・エルダジについてどう思う?」と聞くと、赤ら顔を向けて笑い出す。

「神は、肌の色で善人と悪人をわけてくだすった。あいつ、その事をわきまえずによ、弁護士なんて目指そうなんて。わきまえちゃいねぇーー」と言い始めた。

「ああ。弁護士? 何の役に立つんだ。あんな男にーーそれで、アンタは彼が逮捕されて、どう思う?」

「逮捕なんて生ぬるいーーあいつはーーいや、酒がまずくならぁーー」

「そうだね。事件のことで、アンタしか知らない事をききたいな。賢いアンタの意見を聞きたい。黒幕とかいるの?」

「黒幕?なんの黒幕だ......そんなの知るかよ。でもーー事件は、そうだなあ、オレは見抜いているかもしれない。」

「複数の犯人がいること?」

「当たり前だあーー」

「アンタも関わった?」とグイッと聞いてみた。


ホリスは鼻を鳴らして笑い、

「それどころかーー」

と言いかけて、ぴたりと口を閉じた。


その一瞬、彼の目の奥で酔いが引くように影が走った。

自分が“余計なもの”に触れかけたと悟ったのだ。


「……あ?」

低い声が漏れ、彼は僕をにらみつけた。


「お、おい、なんだって??」

さっきまでの陽気さとは別人の声だった。

酒場のざわめきの中で、そこだけ空気が冷えた。

僕はさりげなく彼の肩を叩いた。

「ほら、呑みすぎだよ、ホリスさん。

白い肌が赤くなっているーー」

すると彼は自分自身の腕を見て、不機嫌そうになった。

「酒が不味くなる。変なこと聞くなよ。」そう言って黙ってしまった。

「すみません。これだから、出世できないんです、はははーー」

僕は頭の中で組み立てた。

フランシス・ホリス・モーガンは、事件の実行犯である可能性が高い。

しかも、彼だけではなくグループも関与してる。そして、彼を操作することは可能。

それを気づきもしない。

無教養で、自己中、浅はかさがある。

彼がエダルジ家の嫌がらせをしたり、匿名の手紙を出したりするのは不可能。彼は直接的な暴力を選択する。

家畜を殺すようなーー。


ーー蜘蛛の糸。


暴力と知性が絡んでいる。


それらは独立していて、

一つの答えを指していた。

この村には蜘蛛がいる。


考えすぎじゃなく、このホリスを操作し、手紙を書かせたりするヤツだ。


ホリスは黒幕に反応しなかった。

彼はなんらかの方法で、自分が思いついたと操作されている可能性が高い。

糸の先が見えないーー。

彼では届かないーー。


この糸は信仰や偏見の延長線として垂らされているのかもしれないーー。


僕はホリスに軽く会釈した後、彼から離れた。なるべく急いでね。

蜘蛛の存在とホリスに関する考察を、キャンベル刑事と共有した。

ホームズのように秘密主義でいたかったけど、これは、まだ始まりだ。

なるべく結果を見せなきゃならなかった。キャンベル刑事は、こう応えた。

「ホリスは実行犯の可能性がーーわかった。手紙のようなものを、ヤツは確かに指示なんてしない。お前の見解は正しいんだろう。なんとかヤツを逮捕して押さえて、証拠を得なきゃな。時間との戦いだ。

なあに、吾輩とホームズがいたら大丈夫だ。、吾輩は匿名の手紙をださせた

知性についても、調査しよう。

ホリスが接触するヤツは限定的だ。

グループと生活範囲内を洗いさえすればなーー」


キャンベル刑事と話しているうちに、

一つ、胸の奥がざわついた。

——警察は、事件をある程度まで把握しているのではないか。


彼らは“筋書き”を先に作り、

現実をその物語に合わせて動かしている。

足りない部分は推測で埋め、

それらしい形に整えていく。


僕は、その先を考えないようにした。

考えたら、戻れなくなりそうで。


「ヤツらを逮捕したら、村は落ち着くだろう。」とキャンベル刑事は笑みを浮かべた。

僕の見解は終わってなかった。

「知性をもつ奴は、こんなバカな事件をやろうとはしない。ここに蜘蛛の糸がある。ーーキャンベル刑事、暴力と知性は蜘蛛の糸によって縛られているーー扇動者がーー蜘蛛がいる。

そいつは、村にはいないかもしれない。だけど、必ずいるーー」

彼の目が、驚きで大きくなった。

「扇動者?蜘蛛ーーなんだ?

また何か思いついたのか?

その蜘蛛はーーわざわざ事件を起こさせた?」と彼は狼狽えていた。

「ーー知性を磨くためだーー蜘蛛の糸を試したんだーー」

僕らの中で冷たい何かが通り過ぎていった。

現実には存在しない男の蜘蛛の糸。

その影をーー。


僕の頭には、かつての友人の影がよぎった。

そしてキャンベル刑事もまた、

“名探偵と共に崖へ落ちたあの男”を思い出したのだろう。


「信じられない……いや、信じたくないぞ」

彼の声には、恐怖だけでなく、うんざりした気配も混じっていた。

あの悪魔が現実に現れたら、

紅茶をすする程度の気軽さで事件を起こすと知っているからだ。


「本来、頭のいいヤツはこんな大掛かりな事件をやらない。

利益がなければ動かない。

……なのに、事件は起こった。

金のためじゃない。

ただ、やりたかったからやったんだ」

僕は、机の上に蜘蛛の形を描いた。


それを見た瞬間、キャンベル刑事は顔を青ざめさせた。

「あの悪魔が、この現実にいるわけがない……」


「モリアーティの蜘蛛の糸だ。あいつ、虚構の蜘蛛がロンドンを舞台とした犯罪美術館を再現しようとしてる。

まるで、バカな話だ。バカの代名詞だ。ーーだけど、ホームズがいたんだ。必然的に、蜘蛛はいる!」

僕は震えながら言った。

ーー止められなかった。

僕の推理が正しければーー


(こうして、第十三幕は不吉な数字と共に蜘蛛がこちらを見ている。幕が閉じていく最後までーー)


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