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シャーロキアンのホームズⅡ〜名探偵になりたい男の物語〜  作者: ヨハン•G•ファウスト


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12/13

第十二幕:初めての変装

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第十一幕では、警察による捜査がワーリー村では効果がほとんどないと分かった。僕は、警察の代わりに彼らが睨んだグループの調査をしなければいけない。


僕が本名で誓約書にサインしなかったから、彼らは僕を名前のない男としてつかう。僕が失敗しても、責任を取る事がないだろう。

成功したら、手柄は彼ら。

失敗したら、そこで僕は終わりだった。警察から切り捨てられ、村のグループからは酷い目に遭わされることになる。僕は家畜みたいなものなんだ。


ここはワーリー村にある酒場だ。

若者たちの溜まり場で、やる事のない者たちのはけ口だった。

うつろな目をしてるくせに、自分は周りとは違うと言い聞かせる連中ばかりいる。

白人至上主義に彼らが走るのは、

それしか誇れるものがないからだ。

だから、唯一の誇りを傷つける者がいるとヒステリックになる。

壁は煤煙でくすみ、若者たちが時々壊れたように笑ってた。

カウンターにはグループのリーダーであるフランシス・ホリス・モーガンが独りでグラスを傾けている。

この名前は、キャンベル刑事から教わった。最有力の嫌疑者の一人だ。

グループの主犯格で、豚肉屋の若者。現場の脂ぎったキャップが彼のものと疑われている。


彼は時々、仲間たちに声をかけるが、何か考えごとがあるみたいだった。

茶色の脂でてかった短髪に二重顎、たくましい身体つきをしてた。

豚肉屋の仕事をして、鍛えられたんだろう。取り押さえられたら、逃げられない。気をつけなきゃ。

僕は今から『ヘイミッシュ・ワルター』というマンチェスター・ガーディアンの地方特派員を名乗って、彼から情報を引き出すつもりだ。

酒を飲ませて、気分良くさせる。

あの悪魔の水は、口を軽くしてくれる。

「やあ、アンタ。奢らせてくれないか。」と彼の座っているカウンターの隣に腰掛けた。

「なんだ、おめえ。村で見ない顔だな? ーー外のヤツらか。」

「ああ。僕はヘイミッシュ・ワルター。マンチェスター・ガーディアンの地方特派員だ。ーーさえない記者だよ。縁があって、コナン・ドイルについていってる。この事件でグレイト・ワーリーの事件が再び起こったらしいじゃないか。気になってる......」

「ちっ......記者かよ。ムカつくな。オレたちは毎日毎日からだを使って稼ぐのに、お前ら外の連中は楽ばかりしやがる」

「その通りだ。ええと、君はフランシス・ボリス・モーガンだね。村で有名だと聞いたよ。」

「ふざけてんのかーーホリスだ。どいつだ、オレの名をチクリやがってーー」

「ちくる?とんでもない。コナン・ドイルと歩いてたら、村の噂をいろいろ聞かされたんだよ」

僕は大げさに肩をすくめてみせた。

「彼女は君のことをほめてた。男らしいとね」


ホリスの目がわずかに揺れた。

疑う気持ちと、褒められた喜びが表情の上でぶつかり合い、

最後に喜びが勝った。

「なに?そ、そうかーー」


「ああ。ーーここだけの話だが、コナン・ドイルは本を書く予定だ。もしかしたら、ホームズの新作かもしれない。君が本に載るかもしれないよ」

「ははは!本にか!ホームズってのはよく知らないが、本か。いいなーー」

「うらやましい。アンタのような白人がこれから、皆の羨望の的になるんだ。」

ホリスは一瞬眉をひそめたが、

“白人が羨望の的になる”という言葉で口角が持ち上がった。

「酒を奢らせてくれよ。自慢したい。ホームズの本に出てきた男に酒を奢ったなんて、記者仲間に言ってみろーーアンタのおかげでさえない人生とはオサラバさ」

「いいなあ!オレのおかげか!なら、断る理由はない。ちょうど飲みたかったんだ。」とホリスはカウンターから酒を注文した。

「おい、酒をもっとよこせ。」

「ほどほどにね。頼むよ。アンタはたくさん呑みそうだから」

「わかってる。でも、それぐらいは覚悟しろ。なにせ、オレのおかげでさえない人生が終わるんだ」

それから、ホリスは下品に笑った。

彼の二重顎が激しく揺れた。


(こうして、第十二幕は肉屋の自慢で幕を閉じる。)


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