第十一幕:調査開始
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十幕では、「コナン・ドイルに警察から得た情報を共有しない。」と誓約書にサインした。この公的な約束を破れば、僕は警察に逮捕される。
ーーそれがどうした。
僕はやってやる。
警察署の一室を借りて、まだ公開されてない書類を読み進めた。
探偵として警察から許可された高揚感で、自分が特別のように感じた。
落ち着かないといけない。
事件は下記のように起こった。
1903年の夏。ワーリーの共有牧草地。
最初の犠牲がでた。道端の溝に数頭の馬が発見された。
ここに引きずり込まれ、腹部と脚を深く切断されていた。朝の牧草の露に赤い血が混じっていた。
犯行は夜中。午前二時頃。
実際の目撃者はいなかった。
地面にも特に足跡がなかった。
村の外部の可能性は低く、
誰にも見られず長期潜伏は不可能だった。村の人たちは外から来る者に対して、警戒してるからだ。
犯行予告もあった。
匿名の手紙が、
郵便局や新聞に届いた。
『グレート・ワーリー・ギャング』と名乗るグループが自分たちの犯行だといった。彼らはいずれーー人も襲うと予告している。
そして、秋。ヘンズフォード・ロード沿いの農場 。
3頭の馬が一夜で殺害。
村人たちが、朝の散歩で気づいた。
家畜の死体は柵内に放置され、
臓器が飛び出た状態だった。
1905から1906年。
近隣の共有地にて事件は再発。
牛や羊ーー主に馬。
死体は常に「人里離れた藪や小道」に隠されていた。
村人たちの見回りも無意味だった。
20頭以上の家畜が犠牲になった。
どれも引き裂かれ、残酷に殺された。
ここまでで目撃者は少ない。
複数不審者の移動があったとも聞いたが、詳しく聞こうとすると拒否されたと記載してあった。
再び匿名の手紙が、
郵便局や新聞に届いた。
グループのリーダーが、ジョージ・エダルジだという内容だ。
ーーしかし証拠はない、
情報源は、あくまでも匿名の手紙だけ。
それでも警察は、エダルジ家を家宅捜査した。そして証拠品はでた。
証拠となったのは、
ポニーの毛と血のついた服、
そして未使用のナイフだった。
逮捕したのは、キャンベル刑事だった。
僕の隣で、当のキャンベル刑事が刈り上げた頭をかきながら聞いてきた。
「ホームズ。お前の見解を聞かせてくれるか。現場は保存できない。野犬やら虫やらわくんだ。詳しく調査もできないーー教えてほしいな」
僕はうなづいて、彼に思ったことを伝えた。
「警察は村の住人に対して、詳しく捜査ができてない。これは彼らを恐れているからだ。強制捜査をしたのは、エダルジ家に対してだけ。複数人いたと証言があったのにも関わらず、一人しか捕まえきれてない。まだ怪しい事があるのに、ここにあるのはーー家畜の殺され方と発見の状況だけだ。
これらは、村に対しての積極のなさが見える。」
キャンベル刑事は、肩をすくめた。
「仕方ないんだ。もしも吾輩らが村人の誰かを捜査したら、彼らの怒りはこちらに向かう。今後、村で何かあったとしても、彼らは一切の協力もしてくれないだろう。ここでの警察の力なんて、こんなモノだ」
「エダルジ家を捜査したのは、そこしかなかったからーーなんだね。
あなた方は結果が欲しかったんだ。」
「そうだな。何も成果がないのだけは、回避したかった。エダルジ家の連中には悪いが、あのままジョージ・エダルジが村にいたら、次は彼が狙われたろう」
「ジョージ・エダルジは、
彼は弁護士なんだろうか?」
「いいや。彼はーー学びの途中だ。熱心な若者だよ。村の連中とは違ってね。ヤツらは肌の色で優劣を決めてる。ジョージ・エダルジが弁護士になったら発狂するんじゃないか。」
「白人至上主義?」
「その通りだ。吾輩らの中にもいるが、あそこまで露骨じゃない。
エダルジ家に対し連中はーー嫌がらせを繰り返す。くだらんハエどもだ。」
キャンベル刑事は困ったように微笑んだ。
「それでも、そんなハエに配慮しなきゃならん。因果な仕事だ。イヤになるが、吾輩らは守る事を誇りとしてる。
どんなに無能と言われようとも!」
僕は、しばらく彼の目を見た。
正義の使命感に燃えていた。
「犯行グループは、いつもつるんでいる。彼らは単独ではいない。
単独なら村の人たちは、報復を恐れない。いつもグループでつるんでいる連中と知っているから、目撃者の証言も少ない。この証言をする連中は、村の中で立場が弱い。相手にされないヒマ人の連中だ。誰かにかまってほしいから、目撃者として証言したんだ。」
キャンベル刑事は笑った。
「鋭いな。そこは吾輩らも調べた。
だがね。証拠が問題になる。連中を逮捕できたとしても、ずっとは押さえられない。」
「なるほど。あなた方は、彼らを調べるために警察でない手が欲しかった。
僕に調べてほしいんだ。そのグループをーー」
キャンベル刑事は静かにうなづいた。
(こうして、第十一幕は捜査により幕を閉じる。)




