第十幕:誓約書のサイン
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第九幕では、休む場所の確保はできたが、キャンベル刑事によって彼のボスに会うことになった。
あのジョージ・オーガスタス・アンソンだ。コナン・ドイルに侮蔑の目を向けた男だった。
僕は警察署に連れてこられた。
それから、暖かい暖炉のある部屋に通された。とても気持ちの良い空間だった。
応接間なのかもしれない。
取り調べ室とは別だった。
質素なソファが向かい合うように部屋に設置してあった。
キャンベル刑事は、部屋の中を行ったり来たりして、ソワソワしてた。
「吾輩はお前を信じている」と彼は肩を叩いてくる。
「ボスから許可をもらってないから、今は何も言えないがーーお前の腕次第だ。」
期待をされ過ぎるのも、
息苦しさを感じた。
素直に喜べたら、
また違うのだろうか。
扉がノックされ、ゆっくりと彼が部屋の中に入ってきた。
男は灰色の短髪に灰色の目をした厳格そうな男だった。
警察の制服なのに、
彼がきたら軍服に見えた。
部屋の温かさが、一瞬に寒くなった。
明らかに歓迎しているとは、言えなかった。
たぶん僕を見定めたら、さっさとやるべき事に戻るんだ。
「推理はするな。ーーやめろ」と彼は言った。
「我々は秘密を取り扱っている。
君を逮捕させたい。」
「ボスーー!」とキャンベル刑事は叫んだ。
「彼の推理はホンモノだーー」
アンソン刑事は静かにキャンベル刑事に応えた。
「だろうな。だから、連れてこさせた。」と彼は一呼吸おいた。
「こいつは、あの作家先生のお気に入りだ。ーー我々を書くための素材にする。推理だと?キャンベルーーやめておけ。一般人に近寄らせるな。
今の事件は家畜だが、いつ人に切り替わるか分からないんだからな。
市民を危険に晒すことになるんだーー」
ーー動揺してはダメだ。
ーー唾を飲むな。
分かってたようにふるまえーー。
ホームズは、どういった?
彼はなんて言った?
“彼らはその事を第三者に知られたら舌を噛み切るんだーー”
「コナン・ドイルに一切協力はしない。もしもーーあなた方が、僕が話したと思ったら、逮捕してもらってかまわない。僕はリスクを、誓約書にサインをする。」
アンソン刑事は、書類とペンを用意していた。
まるで全て分かってたかのようにーー。僕は悔しくなった。
だから当てずっぽうを、推理したように振る舞うことにした。
「アンソン大佐、さすがです」
彼の顔色が変わった。
「誓約書にサインを。
もちろん、ーー本名でだ」
彼はもう一本釘を刺した。
「高貴なご家族に、証明する為に健気にーー」
「警告だ。ーー書くなら、だまって書け。ーー本名じゃなくていい。お前はホームズだ」
僕は、書類に目を通した。 それは、こんな感じだ。
「公式秘密法、1889年
私が1906年グレイト・ワーリー事件再燃(1903-1905年連続家畜切断事件の模倣犯または前回の事件の続きに関する)の公式文書および情報、証言調書、地図、機密通信などを閲覧・入手を許されたことを宣言し、捜査協力の目的であることを認める。
上記文書・情報を、直接的または間接的に、誰に対しても開示・伝達せず、捜査目的以外に使用しないことを誓う。
この約諾違反は公式秘密法第1条または第2条違反で、5年以下の懲役、罰金、または両罰に処せられることを理解する。
」
僕は、慎重に、書類にサインをした。
『シャーロック・ホームズ』とね。
(こうして、第十幕は、名探偵の名にサインした契約によって幕を閉じる。)




