第一幕:運命の郵便受け
1903年頃のイギリス。サリー州ハインドヘッドの屋敷の前に男はいた。
この屋敷は赤レンガ造りの田舎家屋で、高地に建てられていた。
太陽が少しだけ顔を見せ始めて、
世界が白く輝いていく。
男は手紙の束を握っていて、屋敷の郵便受けを冷めた眼差しで見ていた。
男は黒髪短髪に灰色の瞳、顔つきはワシ鼻に角ばった顎が目立った。かなり痩せて身長は約180センチ。少し前屈みになってた。
「みんな、バカだーー」と男は呟く。
「ーーこれを、あの人が読むわけないのにーー」と彼は嘆息しながら、手に持った紙の束を郵便受けに詰め込んだ。
無造作に、容赦なく。押し入れていく。
彼はこの場から、いっこくも早く去りたかった。
とにかく早く帰って、男はシャーロック・ホームズの本を読まなきゃいけなかった。
彼にとって、それが全てで、それ以外はーーまるでクソだった。
特に好きなのは『緋色の研究』だ。
ここには、”彼”の教えが全て詰め込められていた。その後の作品も好きだった。だけど、この本は別格だった。
もしも無人島に本を一冊だけ持ち込めるなら、彼は聖書よりもーーこの本を選んだ。
「終わったか? いくぞーー」と彼の背後から、彼とほぼ同じ姿をした男たちが声をかけてきた。
男たちは黒髪短髪に灰色の瞳、顔つきはワシ鼻に角ばった顎が目立った。
まるでインディアンだ。群れで行動してた。
「いこうーー」と最初の男が彼らに近づこうとした。
だが状況は、一変した。
屋敷の扉が急に開かれて、また新しい男が現れた。
そこには中年男性が立っていた。茶色い短髪には白髪混じり、灰色の髭が口元を隠していて、体はがっしりしていた。ベージュのナイトシャツをきていて、怒りで顔を赤くして彼らを睨みつけた。
この男はアーサー・コナン・F・ドイルだ。彼は非常に怒っていた。
郵便受けに手紙の束をギッチリと押し込まれていたからだ。しかも、昨日もだ。この手紙には『ホームズを書け!それ以外の作品を出すな!』という内容ばかり書かれてあったから。
彼はすでに限界だった。
「シャーロキアンめ!!クソッタレどもめ!」と彼は怒鳴り声をあげた。
そして、あのがっしりとした身体を、シャーロキアンの一人にぶつけて捕まえた。最初の男だ。
「ひっ!」
最初の男は怯えた。
アーサーに仰向けに押し倒されたからだ。
アーサーは最初の男をしばらく観察した。
ーーアーサーの作品の主人公シャーロック・ホームズとほぼ同じ容姿。
それが彼をさらに怒らせた。
「ーーこのまま警察に突き出してやる!」とアーサーは唸った。
最初の男の顔から一気に血の気が引いていった。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
最初の男は必死に謝った。
その瞬間——
アーサーは、何かを感じたようだ。
目を潤ませて、媚を売るように見上げてくる最初の男を見た。
「君ーー名前は?」
「ーーホームズです」
「本名もか?」
最初の男は泣きそうだった。
ホームズになる前の自分に価値なんてないと思ってたから。
ーーアーサーは微笑んだ。
「いいだろう。君をホームズと呼ぼう。ただし条件がある——君は私の付き人になるんだ」
最初の男はキョトンとした顔をした。
「私の屋敷に住め。
ーー私が推理を教えてやる。
本物のーーシャーロック・ホームズの推理をな」
こうして、最初の男ーホームズーは
アーサーの屋敷に住むようになった。
(こうして、第一幕はシャーロキアンで幕を閉じる。)




