第12話 抜け落ち
「……咲穂は、他の有象無象から好かれているようだな」
「……そんな訳ない。令こそ、いろんなものを引き寄せてないの?」
「……まさか」
ギルドに入った瞬間の会話が、これである。
町の門や宿のレベルから、治安が優れて言い訳ではないことは分かっていた。しかし、これはどう……いや、白状しよう。すっかり忘れていたと……
もう何を言っているか、どころか声を耳に入れる気にすらならない。
俺たちの前には冒険者と思われる数人が立っており、何かを喋っていた。多分、見ない顔だからとか、男女の弱そうなペアだからとかだろう。
昔から初めていく、というか二回目に訪れるときは数百年単位で経っていたり新しい町としてできたりしていたので、ほとんどの町で似たような状況に陥ってきた。にも拘わらず、世界滅亡の件で頭から抜け落ちていた。
忘れていたのは確かだが、やることはこれまでと変わらない。さっさと手足落として黙らせ……
そこまで考えたところで、冒険者どもが急に黙った。というよりは、黙らざるを得なかった。
なぜなら、そうしなければ次に訪れるのは死のみだと問答無用で察せさせられたから。
「……そのやかましい口を閉じる。二度は無い」
冒険者を黙らせたのは咲穂だ。先頭にいたものの首に鞘入りの刀を添え、無表情のまま淡々と告げた。その姿は形容し難い迫力、気迫があり、並の人間では気圧されるのが普通と言えよう。かく言う俺も、自分に向けられていないにも関わらず若干押されてしまった。
最も、咲穂は冒険者どもが過剰に反応しさらなる面倒事を引き起こさないよう手加減して威圧している。一度対峙した上での予測では、本気かつ実戦使用ならこんなものではないだろう。
「……散れ」
数秒威圧を維持した後で、少しずつ気づかれないように弱めながら咲穂が言った。その言葉を皮切りに冒険者どもは外へ逃げ出して行った。俺はその様子を眺め、咲穂は横目で見つつ刀を腰に戻した。世界変われど、愚か者はいづれも同じ。なぜこうも似るものやら。
邪魔者が去ったところで用事をすませようとし、奴らが何か落としていったことに気づいた。濃い緑で、完全な球から所々削り取ったような見た目をしている。拾い上げて観察すると、粗く加工された宝石類であると分かった。
俺はそれを咲穂に見せた。
「これ、なにか分かるか?宝石のようだが」
「……確かに宝石のようだけど、形状がめちゃくちゃすぎる。宝石はあまり見る機会は無いけれど、一般的に美しいとされる形とまったく違うことは私でも分かる」
「同意見だ。よくある多角形の宝石ではなく、まるで適当に回しながら抉り取ったような……」
サイズは手のひらに収まる程度。これの価値が如何ほどかは分からないが、少なくともこんな形で売れるとは思えない。だが、加工前の岩は一切付着していない。間違いなく一度は人の手が入っている。あの冒険者たちのものか?しかし、たいして裕福層に見えなかった。装備も十分ではないだろう。ましてや宝石などの装飾品など以ての外のはずだ。
「まあいいか。これは迷惑料としてもらっておこう」
そういって辺りから見えないよう自分に近づけて収納に仕舞った。咲穂からも文句はない。
改めて、咲穂とともにカウンターへ向かった。カウンターに人、つまり受付嬢が立っていて、そこで依頼を受注したりするのも前と同じらしい。
カウンターに着くと受付嬢が笑顔を浮かべて言った。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「登録がしたい。冒険者としてな」
「畏まりました。つきましては、注意事項としてこちらをご覧ください」
そう言われ、数枚の紙を手渡された。載っていたのは前の世界とほぼ同じ内容で、特に重要なことは載っていなかった。
紙を受付嬢に返すと、今度は別の紙を一枚差し出された。それは登録申請書で、名前などいくらでも偽装可能な簡単な情報しか書く欄が無かった。
受け取ったペンで記載していると、受付嬢が話しかけてきた。
「それにしても災難でしたね。登録しに来た日に絡まれるとは。幸いなことに、お連れ様がお強いようで。良かったです、大事にならずに済んで。お連れ様は冒険者を?」
「ああ。現役で長くやってる。ああいった手合いはよくいるのか?」
質問には俺が答えている。咲穂は他人と話すのが苦手なようで基本は黙っている。
受付嬢は苦笑しながら続ける。
「ええ、と答えたくはないのですが、残念ながら。割とどの支部でもいると聞きます。もちろんここも。長くその支部もしくは町にいて、ある程度実力がついてランクが上がるとああなってしまうようです。先例を見て学んでくださればよいのですが」
「やはり学習しないんだな。冒険者の傾向としては、始めは貧しくまともな教育を受けられないものが多い印象だが、その辺も関係しているのか?」
書き終わった紙を出しながら、こちらからも質問していく。受付嬢は受け取って、何等かの魔法具のようなものを操作しながら言った。
「はい。ギルド内でもそのことが原因なのではという説が有力です。その対策で初心者向けにギルドで教育機関をつくるという案があるとかないとか。さて、お待たせいたしました。」
会話を締めくくると受付嬢はカードを差し出してきた。受け取って確認してみると、見慣れた冒険者カードにそっくりだ。
「そちらがレイさんが冒険者であることの証明となります。依頼を受けるときなどギルドでの活動には基本そのカードが必要ですので、お気を付けください。ああ、一つお尋ねしたいことが。先ほど入口辺りで、あの冒険者の方々が落としたものを拾いませんでしたか?」
俺は顔と目をわずかに動かし、横にいる咲穂と目を合わせた。咲穂も同じような動きをしておりすぐに目が合った。ほんの一瞬視線で会話して、受付嬢に向かい首を振って言った。
「いや、拾ってないな」
「そうでございますか。お答えいただきありがとうございます。では、今後冒険者としてのご活躍、心より応援申し上げております」
「ああ」
深く頭を下げる受付嬢を流し見しつつ、咲穂を連れてギルドから出た。




