第9話 ギャップ
時雨式の基本技を咲穂から習った後。
俺たちは歩みを再開した。時雨式については、次の目的地へと向かいながら、結構な数の技を習った。だが、どの技を使ってみても咲穂のそれとは決定的に違っている。形をなぞっただけのような、上部の技。おそらくこのまま実戦で使っても技として斬れはしないだろう。このままでは刃を立て押し付けただけだ。
しかしなぜだろうか?技の理念は自己解釈として、ほぼ網羅できているはず。ならば、技が成立しないとおかしいのだ。
つまりまだ俺が気づけていない、咲穂から読み取れていない何かがあるはずだ。
こんなことは長く生きてきて初めてだ。俺も咲穂ほど積極的では無いが、いろんなのとやり合ってきた。その中で相手の使う武器種や武術、魔法を見抜けなかった事はない。敢えて戦闘中に答えを告げて確認している為間違いない。
……そう言えば、俺は今どんな状態なのだろうか。これまで『生きてきた』と自分で表現していたが、普通に考えて人間が一万も生きれるわけがない。なら俺は人間ではないのか、それとも分類的には人間なのか。
……このことを考えるのは初めてでは無い気がする。ずっと前にも同じようなことを考えたよな。その時も今のからの俺と同じように結論を先送りにしたような。
うん。いづれ分かる日が来るだろ。少なくとも不老なわけだし。
そう考えていると横を歩く咲穂が声をかけてきた。
「令。見えてきた。」
思考から意識を戻すと、高く白い外壁が目に入った。
俺は咲穂のに尋ねた。
「あれが目的地か。なんていう町なんだ?」
「アボビア。そこまで大きいわけでもないし、交易とかお祭りとか特に特徴があるわけでもないけど、衛兵隊に強い人がいるって聞いた。」
なるほど。強者との殺し合いを望む咲穂が選ぶ基準は分かりやすく、本人の理に適っている。
確かに外壁は全体的に灰色で、所々苔らしきものが生えているところを見るに長く手入れはされていないのだろう。つまり、町の外壁がさほど必要とされていないということだ。ここは魔物が多くないか近寄らない、ないしは戦争が起きないのだろう。辺りが草で覆われ、外壁の外にすら畑のような区画が見られるのもまたその証拠だ。来たばかりで地図がなく、ここが辺境なのかそうでないのかも分からない。町の中に入ったらまず情報収集から始めなければならないようだ。
その後数分歩き、俺と咲穂は外壁のすぐ近く、町の入り口だと思われるところにやってきた。
そこで俺を待っていたのは思わず目を擦ってしまうような光景だった。外壁に組み込まれる形で入り口があるのだが、なんと門や柵といったものが一切無いのだ。いつでも誰でも通れる穴の空いた壁で、側に帯剣した兵士が2人立っているだけ。いくら魔物や戦争の被害が少なかろうと、ゼロでは無いはずで、これでは町の安全や治安が不安になる。こんないかにも『戦いとは無縁です!』という場所で、本当に咲穂の言う『強い人』がいるのだろうか。
更に近づき、検問かなにかあるのかと止まりそうになるが、咲穂が歩き続けるのでそれに習い歩き続ける。
そしていよいよ町に入ろうとしたその時、兵士は俺たちをチラリと見て——————視線を戻した。
入った後そのまま歩いて、話し声が聞こえない距離まで来て、俺は口を開いた。
「……この辺りの町というのは、アレが普通なのか?」
すると咲穂は不思議そうな表情をして言った。
「?……あぁ。言ってなかったっけ。町に入る審査が緩い、どころか無いに等しいのはこの町だけ。他はちゃんとしてる。」
「お前、この町に特に特徴はないと言っていなかったか?」
「言ったけど、これぐらい言うまでも無いかなって。別に荒れてるわけではないから。」
咲穂はあっけからんとしている。
辺りを見てみると住居が道沿いに立ち並んでいて、状態も古そうなものでも悪くない。町にゴミが散乱してもいないし、そこらに浮浪者がいるわけでもない。確かに治安が悪いわけではないのだろう。
俺が辺りを見回したことに気づいたのだろう、咲穂が言った。
「ね、大丈夫そうでしょう?あと、」
咲穂はこっちを見て僅かに頬を膨らませ言った。
「私は『お前』じゃない。」
「……そうだな。訂正しよう。」
「ん。」
俺の返事に満足したのか、表情を戻し前を向いた。
なおこの会話中の咲穂の表情はあくまで俺主観であり、実際は全くのレベルで変化していない。
気を取り直すように咲穂が言った。
「さて。時間はまだ早いし、先に町を見て回ろう。それでギルドを見つけ……」
キン、と。
咲穂の言葉を遮って、鋭い金切り音がなった。
咲穂が言う。
「ちょうどいいね。行こう。」
咲穂が歩き始める。さっき聞き捨てならない言葉を聞いた気がするが、ひとまず音の方へ行ってみるとしよう。




