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気の向くままの異世界旅  作者: 方夜虹縷
第三章

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第8話 時雨式 2

気を取り直して。俺が魔力の扱いを教えるのはまた今度の話。今は咲穂による時雨式の講義だ。


「さっき言った通り時雨式は多種多様。その上術理を理解して扱えることこそ、技を使えることになる。少なくとも私はそう思ってる。でも如何に多種多様と言っても全てが独立している訳じゃない。」


「そうだろうな。俺は剣術に詳しくはないが、戦闘の心得はある。オリジナルのな。そんな俺でも違いは分かる。極端な例であれば、仕掛け技と返し技か。攻めと守りと正反対のように見えるが、体の動かし方、剣筋の流れ等が通じている。間違っているか?」


「ううん。合ってる。それが分かってるならこの考えの説明は省く。令はそもそも戦えるから基礎的な身体活動の部分もいらない。始めから技を教える。」


さっきの教本を暗記して自己修正したという発言するから分かってはいたが、咲穂は合理主義かつ冷酷な一面を持っている。本人が意識しているかどうかは分からないが、物事を順序立てて把握し不要な部分は切り捨てる。無情で人として好まれないように思えるが、割と悪くない。こういった状況では時間とかのロスがなくて済む。他にも戦っていて追い詰められたときとかな。余計な真似をして死ぬことがない。俺としては圧倒的にプラスな印象だ。

話を戻して基本技から始めるのはありがたい。今から体の動かし方だとかは無駄でしかない。俺に必要なのは本当に剣術の部分のみ。多くの技に派生する基本技がまずだと思っていた。そういう面でやはり咲穂とは気が合う。


「今から教えるのは『時雨式 空』。」


咲穂は刀を抜いて中段に構える。そこから上段に届かないくらい少し持ち上げ、振り下ろした。なんて事ない、ただ振り下ろしただけ。


「今のが『空』。たぶんただ降り下ろしただけ、って思ったはず。」


事実、それだけだった。魔力を纏った様子もなければ、特段変わった太刀筋をしていたわけでもない。


「確かに外見はそう。でも体の内側……筋肉とかは違う。時雨式ができたとき、乱戦だったから大振りな動きはできなかった。だから如何に小さい動きで確実に斬るか、これが追求された。」


魔物を斬った咲穂を思い出してみる。あの熊を斬ったとき、咲穂は刀を殆ど動かしていなかった。むしろ、実力者や戦闘慣れしていないものがみると刀を動かしていることすら分からないのかもしれない。


「令は聞いたり見たりしたことあるかもしれないけど、ある武術の流派はその場から足と胴を垂直にしたまま動かず相手を吹き飛ばす技がある。実際、私も見たことある。」


「聞いたことがあるな。筋肉がどうのこうのとか何とか。詳しくは全く覚えてない。たしか、相手に手を添えて予備動作なしで振動かなにかを与える、だったか。」


そういう武術は聞いた事はあるものの、珍しい部類だ。事実、一万年旅をして来たが見た事ない。

おそらくこの世界でも使い手は少ないはずだ。それを見たことあるコイツは余程多くの人間に死闘を仕掛けたんだろうな。その使い手とやり合い、そして殺したのならば、コイツのその技術に関する大きな糧になったのだろう。

さらに咲穂が言う。


「この『極小の動き、膨大な効』の考えは時雨式のほとんど技に取り入れられてる。」


「ほとんどってことはそうじゃない技もあるのか?」


「ある。相手を誘う為にわざと隙を曝す技とか。」


「ああ。そういうのも技としてあるのか。」


「その手の技を扱うのはかなり後になる。今は基本技を抑える。物は試し。やってみて。」


俺は自前の刀を抜き中段に構える。咲穂の動きを脳裏に浮かべ、同じようにほんの少しだけ持ち上げ、振り下ろした。


「……できてるようには思えないな。」


「できてないと思う。最初はそんなもの。時雨式は体内を動かす以上、そう簡単にできるものじゃない。でも、令は早くできるようになると思う。その動きのコツさえ掴んでしまえば、技の多くは理念を把握するだけでできるようになる。」


「そんなものか。」


「そんなもの。ところでその刀、ちょっと貸して。」


「?ああ。」


手を出した咲穂に納刀した刀を渡す。受け取った咲穂は鞘から刀身を少しだして見つめだした。

あの刀はどこで手に入れたんだったか。曖昧だが、どこかで拾ったものだったような。

しばらく見た後、咲穂が言った。


「この刀……あまりよくない。切れなくはないけど、長い間は使えない。時雨式は自身に馴染ませることも重要。刀が変わると使用感が変わって、技が難しくなるかも。」


「そんなのも分かるのか?」


「うん。この刀はあんまり輝いてないし、刃が凸凹してる。それに、合理的にも感傷的にも刀は自身の半身とも言える。そんな刀を永遠に使い続けるほうがいい。」


「お前のそれのようにか?」


俺は咲穂の刀を見ながら言った。昨夜の刀を取られたときの反応から、相当大事にしていることが分かる。

咲穂が自分の刀を見、頭に撫でるように手を当て言った。


「そう。この刀は私の半身のようなもの。これからも私とともにある、離れることのない刀。」


咲穂の表情は変わらずとも、その声は慈愛に溢れていた。






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